上 下
330 / 404

新人魔女の栽培研究(2)

しおりを挟む
「……確かにこの内容ならば君は供給者となる。いつでも氷精花を卸せるようにしなければならないだろう。だが、それが私の力を借りなければならない理由になるのか?」

 リゼの当然の疑問に、リッカはコクリと頷いた。

「はい。氷精花は雪の日にしか採取出来ない貴重な植物だと思うんですけど、これを栽培する方法を教えて欲しいんです」
「はぁ?」

 リゼは呆れた表情を浮かべる。リッカが何を言っているのか理解できなかった。リゼの様子を見て、リッカは困ったような表情になる。

「やはり栽培は難しいでしょうか?」

 リッカの疑問に、リゼはますます訳が分からないといった顔をする。

「そんなことは知らん。薬草農家にでも聞け」
「え~。薬草農家の方ですか? わたしには知り合いがいないのですけど、リゼさんはどなたかお知り合いの方、いますか?」

 リゼはリッカをジロリと睨む。

「君は、私にそんな知り合いがいると思うのか」

 リゼの言葉にリッカはガックリと肩を落とす。

「……ですよね……」

 リゼはもう自分には関係ないとでも言うように再び本を開く。しかし、すぐにパタンと音を立てて本を閉じてしまった。リゼは顎に手を当てて考え込む。

「しかし、氷精花の栽培か……」

 リゼのつぶやきを聞いたリッカの顔がパッと明るくなった。

「何か心当たりがありますか?」
「いや、全く。ただ、あれがこの工房でいつでも手に入るようになるのはそう悪いことでもないなと思っただけだ」

 リゼはそう言いながら立ち上がると執務机の横にある窓を開ける。工房の中は窓が閉まっていると暗いが、開ければ明るい日差しが入ってくる。リゼは窓の外を無言で眺めながら、しばらくの間こめかみの辺りをトントンと叩いていたが、やがて何かを思いついたようにリッカを振り返った。先程までと打って変わって、なんだか楽しそうに口の端を上げてニヤリと笑う。

 リゼの何かを企むような嫌な笑みに悪い予感を覚えながらリッカが尋ねる。

「な、何ですか?」
「気が変わった。今回は私も君に協力しよう」
「ほ、本当ですか!?」

 リゼの言葉にリッカは驚きの声を上げる。もともと助力を頼んでいたのでリッカにとってはありがたい話ではあるが、先程までとの態度の差についつい訝しんでしまう。

 しかし、この気まぐれな師匠が気を変えた理由に思い当たる節がない訳でもない。不安そうな表情を浮かべるリッカにリゼは笑みを深める。

「ああ。私は、場所と知恵を提供しよう。労働は君の領分だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...