上 下
317 / 374

新人魔女の初オークション(5)

しおりを挟む
『皆様、本日はよくぞお越しくださいました。これよりオークションを開催いたします』

 司会者の挨拶が終わると同時に再びホールに明かりがついた。男性が恭しく一礼する。いよいよオークションの始まりだ。

 まず初めに出品された品は、薪の束だった。リッカは思わず目を丸くする。薪の束など、わざわざオークションで競り落とす者がいるのだろうか。そんなことを疑問に思っていると、司会の男性が商品の説明を始めた。

『こちらの薪は、名のある冒険者が寒冷地にて採取したものです。並大抵の方法では手に入らない上物です。しっかりと乾燥させてあるため、着火がスムーズに行えます。それなのに、なかなか燃え切らないので、何度でも繰り返し使えてコストパフォーマンス抜群です。料理屋や鍛冶屋など、火を使う職業の皆様にはおすすめの一品でございます』

 司会者の説明に参加者は口々に感嘆の声を上げる。リッカの横では、エルナが「まぁ、そのような物が」と興味深そうな声を漏らしていた。なるほど、オークションに出されるだけあって、この薪には他にない特徴があるようだ。

『お値段は銀貨一枚からどうぞ!』

 司会者が言い終わると同時に参加者たちの手が挙がる。次々と入札の声が上がり、瞬く間に薪は落札された。

「すごい、あっという間に決まってしまったわ」

 リッカが呆気にとられていると、隣に座るギルド長が説明してくれた。

「薪は生活には必須の道具だからね、結構需要が高いんだよ」

 なるほど、とリッカは納得したように頷く。

『では次の商品です』

 司会者の言葉とともに、舞台袖から台車に乗せられた魔道具が出てくる。今度は火を点けるための魔道具らしい。薪の後に火の魔道具を出してきたのは、セット売りでも考えているからだろうか。

 ギルドの進行手法に一人納得しながら、壇上の司会者が実際に魔道具を使いながら性能を説明している様を見る。実演を見る限り、魔力がない者でも使える生活魔法用の加工魔石が組み込まれているようだった。説明が終わると落札が始まり、これもすぐに買い手が決まった。

 オークションは順調に進行していく。先の薪や魔道具といった生活に必要な物から、宝飾品や絵画など趣味に関係した物まで様々な品が出品されていく。ある品の値はどんどん釣り上がり、誰かが落札する度に歓声が上がったり拍手が起こったりする。

「いやぁ、今日のオークションは見ごたえがあるな」

 ジャックスが感心した様子でホールを眺める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...