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新人魔女とギルド長(8)
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リッカは戸惑ったようにジャックスを見上げる。しかし、彼は当然だというように頷いた。
「まあ、見学がてら参加するのがいいだろう。どのみち、年に六回はオークションへ参加しなきゃならんのだから」
「そうですね。分かりました」
リッカが頷くと、オリバーは「それでは明日は私がご案内しましょう」と、胸に手を当てて優雅に微笑んだ。
ギルドへの加入登録と明日の約束を無事に終えたリッカとジャックスは、オリバーに見送られてギルド長の執務室を後にした。受付カウンターの横を通り過ぎるとき、ジャックスがカウンターの女性職員にリッカを紹介してくれた。状況を察した女性職員は「ああ」と頷くと、リッカに向かってにっこりと微笑む。
「はじめまして。私はこのギルドの受付を担当しているデイジーよ。よろしくね」
リッカはペコリと頭を下げた。
「初めまして、デイジーさん。リッカです。これからよろしくお願いします」
リッカが挨拶をしていると、「すみません」とギルド利用者がカウンターへやって来た。
「あら、ごめんなさい。じゃあ、またね」
そう言ってデイジーはリッカへ軽く手を振って自分の仕事に戻る。
残されたジャックスとリッカは、ギルドを後にしようと出口へ向かって歩き出す。しかし、数歩と行かないうちにリッカの足が止まった。
リッカの視線の先には備え付けられた長椅子に座り、肩を落としているラウルの姿があった。いつもの明るい雰囲気ではなくどこか暗い空気を漂わせている。リッカの視線に気づいたのか、ラウルが顔を上げた。
「やあ、リッカちゃん……と、あなたはいつもアップルパイを買いに来て下さる……えっと……」
どうやらラウルはジャックスのことを常連客として覚えているようだった。
「こんにちは、ラウルさん。こちらはミーナさんの旦那さんのジャックスさんです」
「そうですか。ミーナさんの。ミーナさんにはいつも大変お世話になっております」
「いやいや、こちらこそ」
ジャックスとラウルはお互いに軽く会釈する。
「ところで、何かあったのか? 随分と顔色が悪いようだけど」
ジャックスが尋ねると、ラウルは力なく首を横に振った。
「いえ……ちょっと寝不足でして」
そう言ってラウルが薄く笑ったその時、カウンターの方からラウルを呼ぶ声が聞こえた。
「すみません。呼ばれたようなので、これで」
「ああ」
「お大事になさってください」
ジャックスとリッカはラウルを見送ると、心配そうな顔を互いに見合わせた。
「まあ、見学がてら参加するのがいいだろう。どのみち、年に六回はオークションへ参加しなきゃならんのだから」
「そうですね。分かりました」
リッカが頷くと、オリバーは「それでは明日は私がご案内しましょう」と、胸に手を当てて優雅に微笑んだ。
ギルドへの加入登録と明日の約束を無事に終えたリッカとジャックスは、オリバーに見送られてギルド長の執務室を後にした。受付カウンターの横を通り過ぎるとき、ジャックスがカウンターの女性職員にリッカを紹介してくれた。状況を察した女性職員は「ああ」と頷くと、リッカに向かってにっこりと微笑む。
「はじめまして。私はこのギルドの受付を担当しているデイジーよ。よろしくね」
リッカはペコリと頭を下げた。
「初めまして、デイジーさん。リッカです。これからよろしくお願いします」
リッカが挨拶をしていると、「すみません」とギルド利用者がカウンターへやって来た。
「あら、ごめんなさい。じゃあ、またね」
そう言ってデイジーはリッカへ軽く手を振って自分の仕事に戻る。
残されたジャックスとリッカは、ギルドを後にしようと出口へ向かって歩き出す。しかし、数歩と行かないうちにリッカの足が止まった。
リッカの視線の先には備え付けられた長椅子に座り、肩を落としているラウルの姿があった。いつもの明るい雰囲気ではなくどこか暗い空気を漂わせている。リッカの視線に気づいたのか、ラウルが顔を上げた。
「やあ、リッカちゃん……と、あなたはいつもアップルパイを買いに来て下さる……えっと……」
どうやらラウルはジャックスのことを常連客として覚えているようだった。
「こんにちは、ラウルさん。こちらはミーナさんの旦那さんのジャックスさんです」
「そうですか。ミーナさんの。ミーナさんにはいつも大変お世話になっております」
「いやいや、こちらこそ」
ジャックスとラウルはお互いに軽く会釈する。
「ところで、何かあったのか? 随分と顔色が悪いようだけど」
ジャックスが尋ねると、ラウルは力なく首を横に振った。
「いえ……ちょっと寝不足でして」
そう言ってラウルが薄く笑ったその時、カウンターの方からラウルを呼ぶ声が聞こえた。
「すみません。呼ばれたようなので、これで」
「ああ」
「お大事になさってください」
ジャックスとリッカはラウルを見送ると、心配そうな顔を互いに見合わせた。
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