上 下
303 / 364

新人魔女のギルド加入(7)

しおりを挟む
「本当に工房主になるんだな、嬢ちゃん。これから大変だぞ」
「大丈夫です。ギルドのサポートは手厚いようですし。きっとジャックスさんも力になってくれますもの。ね?」

 リッカが笑顔で言うと、ジャックスは困ったように頭を掻いた。

「いや、……まあそうだな。困ったことがあったら何でも相談してくれ」

 リッカは再び頷いた。工房運営に関しては、いずれ学ばなければならないことだろうと思っていた。それが少し早くなっただけで特別困るようなことでもない。ギルドから手厚いサポートを受けられるのであればむしろ安心である。それにプレースメントセンターの所長であるジャックスが力になると言ってくれているのだ。これ以上に心強いことがあるだろうか。

「はい。ありがとうございます」

 リッカが笑顔で礼を言うと、ジャックスはどこか複雑な表情を浮かべたまま頷いた。こうして、リッカは工房主となった。

「早速ですがジャックスさん。わたし、作業用の服を調達したいと思っているのですけど、どこか良いお店をご存知ですか?」

 リッカの唐突な質問にジャックスはきょとんとした表情を浮かべた。それから、顎に手を置き考える。

「作業服か……。嬢ちゃんのか?」
「いえ、お姉様の分です。工房用の制服とでも言いましょうか。お仕着せのような動きやすい服装でいて、あまり貧相に見えないものが欲しいのですけど」

 リッカの注文にジャックスは首を傾げる。

「どうだろうな……。俺はそういったことには詳しくない」
「そうですか」

 ジャックスの答えにリッカがどうしたものかと思案していると、リゼが口を挟んだ。

「エルナさんの服ならば私が準備しても良いぞ。王室が使っている仕立て屋に頼めばすぐだ。腕も申し分ない。高級な生地をふんだんに使った物を作らせるとしよう」

 リゼが鼻息荒く言う。しかし、リッカは首を横に振った。

「いえ。それは。お姉様は今着ているもののように気軽に着られる服が良いそうなので」

 流石にジャックスの前でエルナが侍女服を着ているとは言えず、リッカは言葉を濁しながらリゼを制する。

「……そうか。あのような服か。それは……」

 リゼは少し残念そうに項垂れた。リッカはそんなリゼを気にしながらも、ジャックスに向き直る。

「作業服でなくとも良いのです。どこか心当たりはありませんか?」

 ジャックスは困ったように頭を掻く。

「悪いが俺にはさっぱりだ。後でミーナに聞いておこう。良い店を知っているかもしれないぞ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした

星ふくろう
恋愛
 カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。  帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。  その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。  数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。    他の投稿サイトでも掲載しています。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...