276 / 461
新人魔女と襲撃者(4)
しおりを挟む
「昨夜はゆっくりと寝られましたか?」
「はい」
そう言うとエルナは小さく微笑む。しかし、義姉のしなやかな手が何度も髪を触る。まるで髪留めがそこにある事を確認するかのようなその仕草からは、言葉とは裏腹に義姉の落ち着かない様子が窺い知れた。
「あの……」
なんと声をかければ良いだろうかと迷いながらリッカが口を開いたとき、それまでクッキーに夢中で静かにしていたフェンがエルナの足に纏わりついた。
「ちょ、ちょっとフェン」
突然の使い魔の行動にリッカは目を丸くする。義姉も驚いたように足元へ視線をやる。しかし、フェンは我関せずとしきりにエルナの足に頭を摺り寄せた。そんな行動にエルナの顔が次第に綻ぶ。
「まぁ、フェンちゃん。あなたも心配してくれているの? 大丈夫ですよ。あなたとリッカさんのおかげで大事には至りませんでしたから」
エルナがそう言ってフェンを優しく撫でてあげると、フェンは気持ちよさそうに目を細めた。そんなエルナの動向を隣で静かに見守っていたリゼが小さく息を吐くのが分かった。リッカは、天下の大賢者でもさすがに気を張っているのだなと思った。
「あの、もしお二人に時間があるなら少しここでお茶を飲んでいかれませんか? この部屋からの眺めはとても素晴らしくて、わたし、バルコニーに出てお茶を頂いていたところだったのです」
リッカの緊張感のない誘いにリゼとエルナは思わず顔を見合わせる。だがすぐに二人の肩から力が抜ける。二人は少し緊張を解いたようだった。
「全く君は。昨日あんなことがあったのに、呑気なものだ。……しかし、頂くとしよう。ねぇ、エルナさん」
呆れたようにそう言うリゼの口元は、言葉とは裏腹に少し緩んでいる。リゼの言葉にエルナも「えぇ」と同意した。
リッカたちがバルコニーへ出ると、程なくしてメイドが三人分の新しいお茶とお菓子を運んできた。
「素敵な眺めですね」
眼下に広がる景色を眺めていたエルナが感嘆の声を上げる。
「お姉様も昨夜は王宮にお泊まりになられたのでしょう? お部屋から見える景色はこちらとは違いましたか?」
リゼと共にエルナが姿を見せたことから、義姉も昨夜は王宮に留まったのだろうと思っていたリッカだったが、エルナの反応に首を傾げる。
エルナは少し表情を固くしてポツリと呟くように言った。
「私もお部屋をご用意いただいたので、そちらに泊まらせていただきましたよ。でも、その……バルコニーには出ていないものですから」
「はい」
そう言うとエルナは小さく微笑む。しかし、義姉のしなやかな手が何度も髪を触る。まるで髪留めがそこにある事を確認するかのようなその仕草からは、言葉とは裏腹に義姉の落ち着かない様子が窺い知れた。
「あの……」
なんと声をかければ良いだろうかと迷いながらリッカが口を開いたとき、それまでクッキーに夢中で静かにしていたフェンがエルナの足に纏わりついた。
「ちょ、ちょっとフェン」
突然の使い魔の行動にリッカは目を丸くする。義姉も驚いたように足元へ視線をやる。しかし、フェンは我関せずとしきりにエルナの足に頭を摺り寄せた。そんな行動にエルナの顔が次第に綻ぶ。
「まぁ、フェンちゃん。あなたも心配してくれているの? 大丈夫ですよ。あなたとリッカさんのおかげで大事には至りませんでしたから」
エルナがそう言ってフェンを優しく撫でてあげると、フェンは気持ちよさそうに目を細めた。そんなエルナの動向を隣で静かに見守っていたリゼが小さく息を吐くのが分かった。リッカは、天下の大賢者でもさすがに気を張っているのだなと思った。
「あの、もしお二人に時間があるなら少しここでお茶を飲んでいかれませんか? この部屋からの眺めはとても素晴らしくて、わたし、バルコニーに出てお茶を頂いていたところだったのです」
リッカの緊張感のない誘いにリゼとエルナは思わず顔を見合わせる。だがすぐに二人の肩から力が抜ける。二人は少し緊張を解いたようだった。
「全く君は。昨日あんなことがあったのに、呑気なものだ。……しかし、頂くとしよう。ねぇ、エルナさん」
呆れたようにそう言うリゼの口元は、言葉とは裏腹に少し緩んでいる。リゼの言葉にエルナも「えぇ」と同意した。
リッカたちがバルコニーへ出ると、程なくしてメイドが三人分の新しいお茶とお菓子を運んできた。
「素敵な眺めですね」
眼下に広がる景色を眺めていたエルナが感嘆の声を上げる。
「お姉様も昨夜は王宮にお泊まりになられたのでしょう? お部屋から見える景色はこちらとは違いましたか?」
リゼと共にエルナが姿を見せたことから、義姉も昨夜は王宮に留まったのだろうと思っていたリッカだったが、エルナの反応に首を傾げる。
エルナは少し表情を固くしてポツリと呟くように言った。
「私もお部屋をご用意いただいたので、そちらに泊まらせていただきましたよ。でも、その……バルコニーには出ていないものですから」
1
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
有能侍女、暗躍す
篠原 皐月
ファンタジー
貧乏子爵家の長女として生を受けたエルセフィーナ(ソフィア)は、十二歳の時に、運命的な出会いをする。しかしそれはとんでもない波乱に満ちた、周囲を嘆かせる人生への、第一歩だった。訳あって王宮勤めをする事になってからも、如何なく有能ぶりを発揮していた、第一王女シェリル付き侍女ソフィアと、彼女に想いを寄せる元某国王子サイラスが巻き込まれる、数々の騒動についてのお話です。
【猫、時々姫君】【ものぐさ魔術師、修行中】の続編になります。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる