269 / 404
新人魔女と皇太子の婚約者(5)
しおりを挟む
リッカは周囲の視線を気にしつつ、リゼに小声で話しかける。
「こんな所にいて良いのですか?」
しかし、当のリゼは周囲の視線やざわつきなど気にする様子もない。相変わらず無表情のまま、リッカの質問に対して「問題ない」と短く答える。
「いやいや。現に注目を集めていますし、問題ないわけないと思うのですが」
リッカはそう言いながら辺りをキョロキョロと見渡す。好奇の目に晒されるこの状況は非常に居心地が悪い。挙動不審になっている自覚はあるが、落ち着かないものは落ち着かない。だが、そんなリッカの様子など気にも留めず、リゼは平然と話を続ける。
「エルナさんと母君はどこにいる? 陛下がお呼びだ」
「わ、分かりました。母とお姉様にはすぐに伝えますので、リゼさんは広間の外で待っていてください」
「何故だ?」
リッカとしては目立つことこの上ないので、できればリゼには早く退散してほしいというのが本音だ。しかし、そんなリッカの気持ちをリゼは汲み取らない。
「何故って……その……目立ちますから」
「別に構わぬ」
「いや、構いますって!」
そんなやりとりをしている間に、談笑の輪から抜け出した母ロレーヌとそれに付き合わされていたエルナが、リッカとリゼの元へとやってきた。
「まぁ、リゼラルブ様。ご機嫌いかがですか? 本日のお召し物もとても素敵ですわね。どちらの仕立て屋でお仕立てになられたのかしら?」
ロレーヌがおほほと優雅な笑みを湛えながらも、どこか圧を感じさせる勢いでリゼに向かって話しかける。リゼも一瞬ロレーヌの勢いに押されるが、すぐに微笑を浮かべ返事をした。
「お褒めいただき光栄です。お二人もいつにも増してお美しい」
「あら? 嬉しいことを仰ってくださるのね。うふふ」
リゼの言葉に嬉しそうな笑みを見せるロレーヌは、隣を歩く美男子と楽しげに言葉を交わしながら、さりげなく広間の出口へと歩み寄る。リッカとエルナもそれに倣って、母の後を追随する。まるで、おしゃべりに夢中の母に困っている風を装って。
そうして広間に集まる貴族たちから注がれる視線と囁き声に内心冷や冷やしながらも、一行は何食わぬ顔で大広間を後にした。
広間を出ると即座にロレーヌが頭を下げる。
「広間からスムーズに抜け出すためとはいえ、大変失礼な態度をとってしまいました。お詫び申し上げます」
リッカとエルナも続いて頭を下げる。それをリゼは「構いません」とだけ短く答え、そのまま城の奥へと歩き始めた。
「こんな所にいて良いのですか?」
しかし、当のリゼは周囲の視線やざわつきなど気にする様子もない。相変わらず無表情のまま、リッカの質問に対して「問題ない」と短く答える。
「いやいや。現に注目を集めていますし、問題ないわけないと思うのですが」
リッカはそう言いながら辺りをキョロキョロと見渡す。好奇の目に晒されるこの状況は非常に居心地が悪い。挙動不審になっている自覚はあるが、落ち着かないものは落ち着かない。だが、そんなリッカの様子など気にも留めず、リゼは平然と話を続ける。
「エルナさんと母君はどこにいる? 陛下がお呼びだ」
「わ、分かりました。母とお姉様にはすぐに伝えますので、リゼさんは広間の外で待っていてください」
「何故だ?」
リッカとしては目立つことこの上ないので、できればリゼには早く退散してほしいというのが本音だ。しかし、そんなリッカの気持ちをリゼは汲み取らない。
「何故って……その……目立ちますから」
「別に構わぬ」
「いや、構いますって!」
そんなやりとりをしている間に、談笑の輪から抜け出した母ロレーヌとそれに付き合わされていたエルナが、リッカとリゼの元へとやってきた。
「まぁ、リゼラルブ様。ご機嫌いかがですか? 本日のお召し物もとても素敵ですわね。どちらの仕立て屋でお仕立てになられたのかしら?」
ロレーヌがおほほと優雅な笑みを湛えながらも、どこか圧を感じさせる勢いでリゼに向かって話しかける。リゼも一瞬ロレーヌの勢いに押されるが、すぐに微笑を浮かべ返事をした。
「お褒めいただき光栄です。お二人もいつにも増してお美しい」
「あら? 嬉しいことを仰ってくださるのね。うふふ」
リゼの言葉に嬉しそうな笑みを見せるロレーヌは、隣を歩く美男子と楽しげに言葉を交わしながら、さりげなく広間の出口へと歩み寄る。リッカとエルナもそれに倣って、母の後を追随する。まるで、おしゃべりに夢中の母に困っている風を装って。
そうして広間に集まる貴族たちから注がれる視線と囁き声に内心冷や冷やしながらも、一行は何食わぬ顔で大広間を後にした。
広間を出ると即座にロレーヌが頭を下げる。
「広間からスムーズに抜け出すためとはいえ、大変失礼な態度をとってしまいました。お詫び申し上げます」
リッカとエルナも続いて頭を下げる。それをリゼは「構いません」とだけ短く答え、そのまま城の奥へと歩き始めた。
1
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる