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新人魔女と皇太子の婚約者(1)

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 新人魔女のリッカは鏡の前で身だしなみをチェックしていた。

「変じゃないよね……」

 リッカの呟きに、屋敷の使用人が「大丈夫ですよ。お綺麗です」と優しく声をかける。それでもなおリッカは不安そうに鏡の中を覗き込む。

 今日は王宮にて国王の即位礼と皇太子の立太子礼が行われる。新しい国王がマリアンヌであり、皇太子の座にリゼが就いたと国内外に知らせるための式典である。

 リッカは今日、その式典に参列することになっていた。その第一の理由は、宰相家の次期当主候補として、新国王陛下から直々に招待されているからだ。義姉のエルナが本日無事に皇太子の婚約者に相応しいと認められたその時から、リッカは正式に宰相家の次期当主となる。

 もし万が一エルナがリゼの婚約者になれなかったとしても、リッカの師匠であるリゼがこの国の皇太子となることは決定しているので、どちらにしてもリッカは式典に参列することになる。

 とはいえ、リゼの中ではエルナが皇太子妃となることは既定路線のようなので、万が一なんてことはあり得ないのだが。

 つまり、リッカの将来も既に決まっているようなものなのである。

「はぁ……」

 リッカは思わず溜息を漏らす。憂鬱な気分になってしまうのは無理もないことだろう。次期当主に相応しい振る舞いができるであろうか、式典で粗相をしてしまわないだろうか、うっかりへまをやらかして式典に参列している貴族達の笑いものにされやしないか。考えれば考えるほど不安は募るばかりだ。

 不安の一因はリッカが纏うドレスのせいもあるだろう。リッカはドレスを少しつまみ上げる。リッカが纏っているのは、先日自分で選んだ生地を仕立てたドレスだ。光沢のある黒地の上に薄い藤色の布地をふわりと重ね、裾の方には銀糸で細かな刺繍が施されている。下地となっている黒の生地は自分が気に入って選んだものだし、その上に重ねられている藤色の布も刺繍も悪くない。

 しかし、とリッカは鏡の中の自分を睨む。

 そもそも、リッカは自分が着るドレスにあまり興味がなかった。着心地が良く動きやすいもの。それがリッカが選ぶ基準で、それはつまり実用性重視ということなのだが、その基準から言えば今纏っているものは明らかに不向きだと言えるだろう。

 このドレスを仕立てる時、リッカには他の選択肢はなかった。母は「自分で着るものくらい自分で選びなさい」と言ったが、その実、生地もデザインもリッカは母の顔色を窺って決めたのだ。
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