上 下
242 / 436

新人魔女には少し難しい助言の話(2)

しおりを挟む
 リッカの案にミーナは思わずプッと噴き出す。静かにリッカの話を聞いていたエルナも驚きに目を見開いていた。二人の反応にリッカは慌てて言葉を付け足す。

「いや、あの、お客様が……ラウルさんの店に来ていたお客様のほとんどが言っていたことを思い出したんですよ」
「ふふふ。何を言っていたのかしら? まさか、ネージュ様の悪口?」
「ミーナ先生!!」

 ミーナの冗談めかした物言いにエルナは即座に抗議の声を上げた。

 確かにリゼは無愛想な表情のせいで人を寄せ付けない雰囲気がある。しかし、そもそもリゼは森の中に住み滅多に人前には現れないため、大賢者マグノリアとして名前こそ知られているが、容姿や人柄を知る人は少ない。

 そのため、平民がリゼの悪口を言おうにも、本人に関する情報のほとんどを持ち合わせていない。せいぜい、「魔物の巣食う森に住む変わり者」とか「人前に姿を見せない引きこもり」とかその程度だろう。それにあのリゼなら誰に何を言われようとも、大して気にも留めないだろうとリッカは思う。

 エルナの抗議の声にミーナはクスクスと笑いながら謝罪した。

「ごめんなさい。ちょっと調子に乗りすぎたわ。ネージュ様のことは皆敬意を持っていますよ。でも、リッカちゃんはどうしてネージュ様の表情が硬いことが気になるの?」

 ミーナの問いにリッカは大真面目な顔で答える。ラウルの店でリッカは接客をしながら客との会話を楽しんでいたのだが、その途中でふと気付いたのだ。厨房を気にしたり、ラウルはどうしたのかと尋ねてくる客が多いことに。そして、その客たちのほとんどが口を揃えて言うのだ。ラウルの笑顔はとびきり素敵だから、ついまた会いに来たくなると。

 リッカの説明にミーナは納得したように頷いた。

「そうねぇ……確かにラウルくんの笑顔は素敵よね。人当たりの良さがにじみ出ているもの。彼はまさに接客のかがみね」

 ミーナは思い出すように瞳を閉じて微笑む。

「だから、リゼさんももっと笑ったらいいんじゃないかなと思うんですよ」

 リッカの言葉にミーナは困ったように笑う。

「それは……難しい課題ね……」

 ミーナの言葉にリッカはつい乾いた笑いを漏らしたが、二人の会話を聞いていたエルナは不思議そうに首を傾げた。

「ネージュ様はいつでもお優しいですし、笑顔も素敵ではありませんか?」

 エルナの言葉にリッカは一瞬ポカンとした表情を浮かべた。そしてすぐに思い至ったように頷く。

「それはお姉様にだけですよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

処理中です...