179 / 420
新人魔女の疲れる休日(3)
しおりを挟む
姉のマリアンヌに問われ、それまでずっと黙っていたリゼが静かに口を開いた。
「姉上が今回婚姻の話を持ち出されたのは国政を盤石なものとする為と存じます。つまりは、私と宰相家の娘が婚姻する事で宰相家との繋がりを強くすることをお望みなのでしょう?」
リゼの言葉に、姉は頷く。
「その通りですわ」
「でしたら、この話は受けた方が得策かと思われます」
「……しかしそれでは、其方は侍女を娶ることになるのですよ? 王家の者がそんな……」
マリアンヌの問いにリゼは首を横に振る。
「いいえ。侍女ではありません。宰相家が引き受けてくれると言っているのです。宰相家から嫁いで来れば歴とした貴族の娘ではありませんか。そうであれば、婚姻関係を結んだところで何の問題もありません」
マリアンヌが呆気にとられる。
「……良いのですか? 無理に侍女をお側に置かなくても」
マリアンヌが思わずそう呟くと、リゼは小さくかぶりを振る。
「エルナさんならば、気心も知れているし、何より料理が美味いですから」
その言葉にリッカと母は顔を見合わせた。結局は、母の言った通りなのだ。リゼの言葉にマリアンヌも渋々納得したらしい。マリアンヌは大きくため息を吐いた。
「……何だかお膳立てされていたようで不本意ですが、エルナの件は宰相家にお任せしましょう。ただし、条件が二つあります。まず、エルナには至急貴族教育を施して下さい。期限は来月初めにある戴冠式前日までです。戴冠式と併せて、リゼラルブの立太子礼も行います。そこで、リゼラルブとエルナの婚約を発表します」
マリアンヌの凛とした声に、宰相イドラは無言で頷いた。
「それから、スヴァルト家の次期当主は必ずリッカ嬢であること。リッカ嬢がこの先、他の貴族と婚姻をした際に、家督が他者へ移ることを禁じます。イドラとリッカ嬢の責に於いて、エルナ及び王家を恒久的に支援する事を婚約の条件とします」
マリアンヌがそう言うと、一同は恭しく頭を下げた。
かくして、皇太子妃の件は、ひとまずエルナをスヴァルト家の養女として受け入れることで落ち着いたのだった。
昨日の事を思い出しながら、リッカは運ばれてきたスープに口をつける。
「リゼラルブ様からは、事前にお前がコトを起こすから、それに便乗してくれとだけ頼まれていたのだが、……まさか昨日の愚説がそれだったのか? あの様な物言いしか出来ないとは、本当に情けない。貴族たる者、交渉事くらい華麗にこなしてみせろ」
「姉上が今回婚姻の話を持ち出されたのは国政を盤石なものとする為と存じます。つまりは、私と宰相家の娘が婚姻する事で宰相家との繋がりを強くすることをお望みなのでしょう?」
リゼの言葉に、姉は頷く。
「その通りですわ」
「でしたら、この話は受けた方が得策かと思われます」
「……しかしそれでは、其方は侍女を娶ることになるのですよ? 王家の者がそんな……」
マリアンヌの問いにリゼは首を横に振る。
「いいえ。侍女ではありません。宰相家が引き受けてくれると言っているのです。宰相家から嫁いで来れば歴とした貴族の娘ではありませんか。そうであれば、婚姻関係を結んだところで何の問題もありません」
マリアンヌが呆気にとられる。
「……良いのですか? 無理に侍女をお側に置かなくても」
マリアンヌが思わずそう呟くと、リゼは小さくかぶりを振る。
「エルナさんならば、気心も知れているし、何より料理が美味いですから」
その言葉にリッカと母は顔を見合わせた。結局は、母の言った通りなのだ。リゼの言葉にマリアンヌも渋々納得したらしい。マリアンヌは大きくため息を吐いた。
「……何だかお膳立てされていたようで不本意ですが、エルナの件は宰相家にお任せしましょう。ただし、条件が二つあります。まず、エルナには至急貴族教育を施して下さい。期限は来月初めにある戴冠式前日までです。戴冠式と併せて、リゼラルブの立太子礼も行います。そこで、リゼラルブとエルナの婚約を発表します」
マリアンヌの凛とした声に、宰相イドラは無言で頷いた。
「それから、スヴァルト家の次期当主は必ずリッカ嬢であること。リッカ嬢がこの先、他の貴族と婚姻をした際に、家督が他者へ移ることを禁じます。イドラとリッカ嬢の責に於いて、エルナ及び王家を恒久的に支援する事を婚約の条件とします」
マリアンヌがそう言うと、一同は恭しく頭を下げた。
かくして、皇太子妃の件は、ひとまずエルナをスヴァルト家の養女として受け入れることで落ち着いたのだった。
昨日の事を思い出しながら、リッカは運ばれてきたスープに口をつける。
「リゼラルブ様からは、事前にお前がコトを起こすから、それに便乗してくれとだけ頼まれていたのだが、……まさか昨日の愚説がそれだったのか? あの様な物言いしか出来ないとは、本当に情けない。貴族たる者、交渉事くらい華麗にこなしてみせろ」
2
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
隠された第四皇女
山田ランチ
ファンタジー
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動
志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。
むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。
よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!!
‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。
ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる