新人魔女は、のんびり森で暮らしたい！

新人魔女の重大ミッション（１）

　リッカは鏡の前で大きなため息をついた。窓の外を見れば、まだ雪が残っているが、昨日降り積もった雪は大分溶け始めている。この分なら、今日の予定が無しになることはないだろう。

「ついに、この時が来てしまったのね……」

　リッカは緊張気味に呟くと、鏡の中の自分を見つめる。

「う～ん。やっぱりこれじゃない方がいいかなぁ？」

　リッカは鏡の前でクルリと回ってみせる。そんな様子に、足下からクスクスと笑う声がする。

「お似合いですよ」

　フェンの言葉にリッカは苦笑する。

「そっかぁ……それならいいんだけど……」

　今日のリッカの服装はいつもの黒い魔女服ではなく、薄いピンクのドレスだ。その上から正装のローブを羽織る。ローブは略礼装のマントよりも丈が長く、裾丈はくるぶしの辺りまである。

「でも、いつもの魔女服の方が良かったなぁ」
「そんな事を言わないでください。今日のリッカ様も僕は好きですよ」

　フェンの言葉にリッカは困ったように微笑む。

「うん。ありがとう。フェンは今日は影の中にいてね。でも、もしもの時はお願いね」
「はい！　お任せください！」

　そんなやり取りをしていると、扉がノックされた。リッカが返事をすると、部屋の外からそろそろ出かける時間だと使用人の声がかかる。どうやら、タイムアップのようだ。リッカはもう一度大きくため息をつくと、用意しておいたチョーカーを身につけた。

　このチョーカーは、魔力暴発を起こしているように見せかけるために数日前にリッカが作成した魔道具である。今日は王宮へ出向き女王陛下に謁見する予定なのだ。

　そんなことなどつゆ知らず、昨日リッカは紅桃茸のパイを堪能していた。ことの次第を知ったのは、リゼの一言だった。

「よし！　これを明日の手土産にしよう」

　その言葉にリッカは呑気に聞き返す。

「明日はどちらかへお出かけですか？　わたしは何かやるべき仕事はありますか？」

　リッカの問いを聞いたリゼは不可解なものでも見るような視線をリッカに向けた。

「君は何を言っている？　明日、女王陛下に謁見することになったと先ほど王宮から連絡がきたではないか」

　そんなリゼの言葉にリッカは驚きのあまりフォークを取り落とす。リッカの驚きようにリゼは大きくため息をついた。

「そうか。君はこんな天気の中外にいたから、王宮からの知らせを受けていないのだな。今頃、君の家は大騒ぎになっているのではないか？」
「えぇ！？」
「例の私と君の婚約の件、謁見が明日に決まったのだ」