129 / 404
新人魔女の魔力暴発計画(1)
しおりを挟む
リッカは一つ大きく深呼吸すると、工房の扉を勢いよく開けた。
「おはようございます」
森に朝日が入り始めたまだ朝の早いこの時間が、いつしかリッカの出勤時間となっていた。そして、リゼもその時間にはほとんどの場合起きている。
執務机に向かい本を読んでいたリゼは、眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら顔を上げる。しかし、チラリとリッカを見ただけで、またすぐに本へと視線を戻した。
「おはようございます。リゼさん。今日の髪色は水色なのですね」
リゼの髪を見て、リッカは感嘆の声を上げる。リゼは本から視線を外さずに答えた。
「私の髪色は日々変わると話してあったはずだが?」
淡々とした返事にリッカは苦笑する。
「それは伺っていましたが、水色は初めてお会いしたとき以来の色味でしたから」
リゼの髪は、日替わりで色が変わる。日によって金や黒、緋色などの髪色になるのだ。見るたびに色合いが違うので、リッカはいつも新鮮な気持ちになる。
リゼは読んでいた本を閉じ、リッカと向き合った。眼鏡越しに陽光のような透き通った金の瞳と視線が合うと、リッカは思わず姿勢を正す。それから、肩から下げていたお手製の鞄へ手を突っ込むと数枚の紙を取り出し、それをリゼに差し出した。
リゼは紙を受け取ると、順に目を通していく。リッカはそれを緊張した面持ちで見つめた。全ての紙に目を通したリゼは顔を上げリッカを見た。その真剣な眼差しに、思わずリッカも緊張する。
「これは?」
リゼに問われて、リッカはおずおずと口を開いた。
「わたしの考えた魔力暴発を起こす魔法陣です」
リッカの言葉にリゼはジッと魔法陣を見つめる。そして、ややあって口の端をニッと吊り上げた。
「なるほど……面白い」
リゼがこれほど興味深そうに魔法陣を眺める姿を、リッカは初めて見た。もしかしたらと期待に胸が膨らんだ時、リゼがリッカを鋭く見た。
「これを試してみたのか?」
リッカは思わずビクッとする。
「いえ。実は……周囲に危険を及ぼすのではないかと思い、試せていないのです」
リゼはふぅと小さくため息を吐くと、背もたれに身体を預けた。
「懸命な判断だ」
リゼの短い評価に、リッカは体を硬くした。リゼによると、魔法陣自体はよく考えられたものだが、あまりにも危険で使えるものではないという判断だった。
「それで君はこれを使うつもりなのか?」
リッカはその質問に静かに首を振った。人を害する可能性のある魔法陣など、扱うつもりはない。
「おはようございます」
森に朝日が入り始めたまだ朝の早いこの時間が、いつしかリッカの出勤時間となっていた。そして、リゼもその時間にはほとんどの場合起きている。
執務机に向かい本を読んでいたリゼは、眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら顔を上げる。しかし、チラリとリッカを見ただけで、またすぐに本へと視線を戻した。
「おはようございます。リゼさん。今日の髪色は水色なのですね」
リゼの髪を見て、リッカは感嘆の声を上げる。リゼは本から視線を外さずに答えた。
「私の髪色は日々変わると話してあったはずだが?」
淡々とした返事にリッカは苦笑する。
「それは伺っていましたが、水色は初めてお会いしたとき以来の色味でしたから」
リゼの髪は、日替わりで色が変わる。日によって金や黒、緋色などの髪色になるのだ。見るたびに色合いが違うので、リッカはいつも新鮮な気持ちになる。
リゼは読んでいた本を閉じ、リッカと向き合った。眼鏡越しに陽光のような透き通った金の瞳と視線が合うと、リッカは思わず姿勢を正す。それから、肩から下げていたお手製の鞄へ手を突っ込むと数枚の紙を取り出し、それをリゼに差し出した。
リゼは紙を受け取ると、順に目を通していく。リッカはそれを緊張した面持ちで見つめた。全ての紙に目を通したリゼは顔を上げリッカを見た。その真剣な眼差しに、思わずリッカも緊張する。
「これは?」
リゼに問われて、リッカはおずおずと口を開いた。
「わたしの考えた魔力暴発を起こす魔法陣です」
リッカの言葉にリゼはジッと魔法陣を見つめる。そして、ややあって口の端をニッと吊り上げた。
「なるほど……面白い」
リゼがこれほど興味深そうに魔法陣を眺める姿を、リッカは初めて見た。もしかしたらと期待に胸が膨らんだ時、リゼがリッカを鋭く見た。
「これを試してみたのか?」
リッカは思わずビクッとする。
「いえ。実は……周囲に危険を及ぼすのではないかと思い、試せていないのです」
リゼはふぅと小さくため息を吐くと、背もたれに身体を預けた。
「懸命な判断だ」
リゼの短い評価に、リッカは体を硬くした。リゼによると、魔法陣自体はよく考えられたものだが、あまりにも危険で使えるものではないという判断だった。
「それで君はこれを使うつもりなのか?」
リッカはその質問に静かに首を振った。人を害する可能性のある魔法陣など、扱うつもりはない。
2
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる