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新人魔女と妊婦と不思議なアップルパイ(3)

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 一息つくと、買ったばかりの粉砂糖がたっぷりとかかった揚げパンを紙袋から取り出した。足下にいるフェンに、一口大にちぎった揚げパンを与えると、自身もパクりとパンに噛り付く。

(あぁ、美味しい!)

 リッカはふわふわの揚げパンを咀嚼しながら、幸せそうに頬を緩めた。酷使しすぎた脳が糖分を欲していたのか、食べ進めるスピードが幾分早い。早々に一つを平らげると紙袋へ手を入れ、二つ目の揚げパンを取り出した。

「これもなかなか美味しいですね。クッキーほどじゃないですけど」

 そんな事を言いながらも揚げパンをペロリと平らげたフェンとパンを分け合いながら食べ進めていると、どこからか甘い香りが漂ってきた。リッカはその香りに誘われるように立ち上がる。

(良い香り……)

 ふらふらと匂いに誘われるように足を進めるリッカの後ろをフェンもついていく。

 甘い匂いの元はスイーツを売っている屋台のようだった。屋台の前には女性客が溢れている。リッカは客たちの間から、チラッと屋台の商品を覗き込んだ。

「美味しそう……」

 リッカの視線の先には、焼き上がったばかりのアップルパイがキラリと表面を光らせて並んでいた。バターとリンゴの甘酸っぱい香りに、リッカはごくりと唾を飲む。

 屋台の主は、男性で銀色の髪をしていた。少しタレ目がちな目元を嬉しそうに細めると、焼けたばかりのアップルパイを手早く切り分けて箱に詰めていく。その華麗なナイフ捌きと周囲に漂う甘い香りに、いつしかリッカはうっとりとした表情を浮かべていた。

 無意識のままに、少し大きな男性の手を目で追っていると、不意にその手がリッカの方へ突き出された。ハッとして顔を上げると、男性と目が合う。男性は、ニコッと人好きのする笑みを浮かべると言った。

「はい! このアップルパイ、焼きたてだから美味いよ? 食べてみるかい?」

 男性は「どうぞ」と言ってリッカにアップルパイの入った箱を手渡した。

「え? あの……」

 突然差し出されたアップルパイの箱に、リッカが戸惑っていると、男性はニッと笑みを浮かべて言った。

「良い出来なんだ。食べてみてよ」

 リッカは恐る恐るといった様子で箱を受け取った。

「あの、おいくらですか?」

 男性がお金を取る気配が無かったので、リッカは慌ててそう尋ねた。すると、男性は「あぁ」と何かを思い出したように呟き、屋台の看板を指差した。見るとそこには『アップルパイ一個無料』と書かれている。

「え? タダなんですか?」
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