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新人魔女と火を吐く使い魔(8)
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巨体は地面スレスレに浮遊していたかと思うと、ふわりと舞い上がりフェンの体当たりをかわす。
フェンの動きは悪くないが、このまま突進を続けていても、おそらく巨大カラスに傷一つ付けることはできないだろう。フェンは悔しげに低くうなり声を上げる。一方、巨大カラスは余裕の表情で悠々と空を舞っている。
リッカはフェンに別の攻撃指示を出そうとした。だが、それよりも早く、フェンが動いた。
フェンは身体を大きく震わせると、口から勢いよく水を吐き出した。それは巨大カラスの顔に命中し、水飛沫となって飛び散る。
これには流石の巨大カラスも驚いたようで、初めてその顔に動揺の色を浮かべた。
フェンは続けて何回も水を吐く。フェンの口から出た水が、巨大鳥の周りに霧のように広がり、視界を遮られたカラスは慌てて旋回し、霧を払おうとしている。
巨体を足止めしたフェンは、そのまま今度は霧の中へ向かって火の玉をいくつも吐き出した。霧と火の玉がぶつかり合い、盛大な水蒸気爆発が巻き起こる。
リッカは咄嗟に熱風から顔を庇いながらフェンの様子を窺った。
爆発により発生した雨のように降り注ぐ水に全身びしょ濡れになりながらも、フェンはしっかりと敵を見据えていた。その視線の先で、巨大カラスが力なく落下していく。
あまりの出来事にリッカが呆然としていると、リゼがいつの間にかすぐ傍までやって来ていて、パンと手を叩いた。すると、巨大カラスの姿があっという間に消え失せた。
「そこまで」
リゼの声が響き渡る。フェンがトテトテとリッカの元へと走り寄ってきた。リゼが静かに口を開く。
「見たところ、火属性と水属性の魔法が使えるようだが、他には?」
リゼの問いにリッカは首を振る。
「わかりません。この子がこんなに戦っているところを見たのは、わたしも今日が初めてなので」
リッカの答えにリゼは腕を組みながら少しの間考え込んでいたが、やがて口を開いた。
リゼの話では、フェンがどのような魔法を扱えるのかを知るためにも、今後は定期的に力を測る必要があるそうだ。
「分かりました。えっと……それで、参考までに教えて頂きたいのですが、グリムさんの時はどのようなことをしていたのですか?」
「グリムの時?」
リゼはしばらく思案顔だったが、やがて、ああと呟くと、こともなげに言った。
「グリムにはやっていない。グリムとそれはどうやら違うようだ」
「え?」
リゼの言葉の意味がよく分からず、リッカは首を傾げた。
フェンの動きは悪くないが、このまま突進を続けていても、おそらく巨大カラスに傷一つ付けることはできないだろう。フェンは悔しげに低くうなり声を上げる。一方、巨大カラスは余裕の表情で悠々と空を舞っている。
リッカはフェンに別の攻撃指示を出そうとした。だが、それよりも早く、フェンが動いた。
フェンは身体を大きく震わせると、口から勢いよく水を吐き出した。それは巨大カラスの顔に命中し、水飛沫となって飛び散る。
これには流石の巨大カラスも驚いたようで、初めてその顔に動揺の色を浮かべた。
フェンは続けて何回も水を吐く。フェンの口から出た水が、巨大鳥の周りに霧のように広がり、視界を遮られたカラスは慌てて旋回し、霧を払おうとしている。
巨体を足止めしたフェンは、そのまま今度は霧の中へ向かって火の玉をいくつも吐き出した。霧と火の玉がぶつかり合い、盛大な水蒸気爆発が巻き起こる。
リッカは咄嗟に熱風から顔を庇いながらフェンの様子を窺った。
爆発により発生した雨のように降り注ぐ水に全身びしょ濡れになりながらも、フェンはしっかりと敵を見据えていた。その視線の先で、巨大カラスが力なく落下していく。
あまりの出来事にリッカが呆然としていると、リゼがいつの間にかすぐ傍までやって来ていて、パンと手を叩いた。すると、巨大カラスの姿があっという間に消え失せた。
「そこまで」
リゼの声が響き渡る。フェンがトテトテとリッカの元へと走り寄ってきた。リゼが静かに口を開く。
「見たところ、火属性と水属性の魔法が使えるようだが、他には?」
リゼの問いにリッカは首を振る。
「わかりません。この子がこんなに戦っているところを見たのは、わたしも今日が初めてなので」
リッカの答えにリゼは腕を組みながら少しの間考え込んでいたが、やがて口を開いた。
リゼの話では、フェンがどのような魔法を扱えるのかを知るためにも、今後は定期的に力を測る必要があるそうだ。
「分かりました。えっと……それで、参考までに教えて頂きたいのですが、グリムさんの時はどのようなことをしていたのですか?」
「グリムの時?」
リゼはしばらく思案顔だったが、やがて、ああと呟くと、こともなげに言った。
「グリムにはやっていない。グリムとそれはどうやら違うようだ」
「え?」
リゼの言葉の意味がよく分からず、リッカは首を傾げた。
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