新人魔女は、のんびり森で暮らしたい！

新人魔女と怪しい店（１）

　新人魔女のリッカは、昼過ぎに目を覚ました。ベッドから起き上がると、少しだけ頭が痛む。魔力を使い過ぎたせいだろう。

　今日はゆっくり休めと工房主のリゼから言い渡されたので、ありがたくその指示に従った。しかし、いくらか睡眠をとっただけでは回復しないほどに、昨夜は魔力を消費したらしい。なんとなく体も重い気がする。

　とはいえ、いつまでも寝ているわけにもいかないので、食事を摂るため一階にある食堂へと向かうことにした。食堂に着くと、両親が揃って食事を摂っているところだった。

「お父様、いつお帰りに？」

　昨夜のリッカ同様、深夜に出かけて行った父は、朝方リッカが帰宅した時にはまだ帰っていなかった。父はどこか疲れたような表情を浮かべながら答えた。

「ついさっきだ。……それよりもリッカ、座りなさい」

　そう言われて、リッカは自分の席につく。すると、すぐに食事が運ばれてきた。しかし、明け方に工房でエルナの作ってくれた食事を食べた時と違い、今はあまり食欲がわかない。スープだけでよいと断って、あとは下げてもらう。

　そんなリッカを心配そうに見つめる両親に気付いて、リッカは無理やり笑顔を作った。食事の間、両親は特にリッカに何も言ってこなかった。しかし、食後のお茶を飲み終えた頃になって、父が口を開いた。

「リッカ、お前の勤め先が大賢者ネージュ様の工房だと言うのは、本当か？」

　父の少し厳しい眼差しを受けて、リッカは一瞬息を呑む。しかし、一度大きく深呼吸をして、しっかりと父を見据えると、リッカは静かに肯定の意を示した。

「はい。お父様。わたしは確かに、ネージュ様の工房にて助手として働いております」

　それを聞いて、父は片眉を少し上げた。

「助手？　学校を卒業したばかりのお前がか？　工房見習いの間違いであろう？」

　父の言う通りなのだ。本来ならば、学校を卒業したばかりの者が就ける仕事ではない。しかし、リッカは唇を引き結んで首を振る。

「いえ、違いません。わたしは、ネージュ様の助手です」

　そうはっきりと告げれば、父は困り果てたように嘆息した。

「リッカ、お前は大賢者ネージュ様の御身分を知っているのか。いいか、あの御方は……」

　父の口からリゼの本来の身分が語られる前に、リッカはその言葉を遮った。

「お父様。それについては存じております。その上で、わたしはネージュ様にお仕えしております。ですが、ネージュ様のお立場については、今この場で口にするのは控えた方が良いと存じます」