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新人魔女と師匠の静かなる時間(5)

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「名前? 何言うとんねん。こいつはリゼラルブの使役獣や。名前なんてないで」

 リッカは目を見開き、信じられないと言わんばかりに叫ぶ。

「えええええっ!? リゼさんって、こんなに大きな竜を使役してるんですか!?」
「そうやけど……?」

 グリムが不思議そうな顔で答えると、リッカは唖然としたようにつぶやく。

「やっぱりリゼさんはネージュを名乗るだけあって、すごい人なんだ……」

 魔獣を使役するにはそれ相応の力が必要となる。平均的な魔法使いや魔女が魔獣を使役しようと思えば、せいぜい魔犬や魔猫、中型の魔鳥程度までだろう。大型の魔象や、今日リッカが爆散させた魔熊ほどのサイズの魔獣を操ることは、魔力量的にできない。

 だが、リゼラルブが使役しているのは竜。大型魔獣よりもさらに大きく、力も強い。空を飛び、炎を吐くこともできる。そんな生き物を従えることができるという事は、それはつまり、リゼラルブがそれだけ強大な魔力を持っているということである。

 さらに言えば、竜種は総じて知能が高く、人に懐きにくいと言われている。そのため、竜を使役することなど、普通の人間にはまず不可能なことだった。だからこそ、リッカは驚いていた。

 ちなみに、使役獣とグリムのような使い魔は似ているようで違う。

 使役獣はその名の通り、主人に操られる存在であり、自らの意思で動くことはない。しかし、使い魔は自らの意志を持ち、自由に行動する。

 そして、両者の違いはもう一つある。使い魔は、術者が魔力により生み出した存在であり、術者が生きている限り、怪我や寿命で死ぬことはない。簡単にいえば、術者と使い魔は一心同体である。

 一方、使役獣は、元々は自然界に存在する魔獣である。その命は術者ではなく自然によって維持されている。つまり、使役獣には個々に寿命があり、術者の生死に関係なく、命尽きれば自然へと還ってゆく存在なのである。

 リッカの雇い主であるリゼラルブ・ネージュ・マグノリアは、使い魔がいるだけでなく、竜までも使役している。

 やはりとんでもない人に師事してしまったとリッカが頭を抱えていると、竜が大きく翼を動かし、一気に加速した。あまりの速さにリッカは必死になって竜の背にしがみつく。

 やがて速度が落ちてくると同時に、ゆっくりとその巨体が下降し始めた。そして、地面に足がついたところでようやく動きが止まる。

 竜の翼に乗り地上へ降りると、そこは見慣れたマグノリア魔術工房の庭先だった。
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