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新人魔女と師匠の静かなる時間(3)

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「おう。夜遅くにすまんな」

 振り返った白猫はいつも通りの調子で言う。先程までの硬い雰囲気は既に消え去っていた。そのことに内心ほっとしつつ、リッカは尋ねる。

「あの。先ほどのお声はやはりリゼさんでしょうか?」

 リッカの問いに、グリムはこくりとうなずいた。それを見たリッカはわずかに表情を曇らせる。先ほど聞いた声は、普段聞いている声よりも低くて沈んだもののように聞こえたからだ。

「リゼさんに何かあったのですか?」

 リッカの問いかけに、グリムは平然とした様子で頭を軽く振った。

「リゼラルブは特に問題ない。元気に過ごしとるで。ただ……」

 そこで言葉を切ったかと思うと、グリムはふっと目を伏せる。その様子を見ていて、リッカは何か良くないことが起きているのだろうかと不安になった。

 だが、そんなリッカの様子を察してか、グリムは顔を上げると安心させるように言った。その口調は、普段と変わらない。

「そないに心配せんでも大丈夫や。まあ、何が起きとるのかは実際に聞ぃた方が早いから、まずは一緒に工房へ行こか」

 そう言うと、グリムは窓の外へと視線を向ける。つられてそちらへ目を向けたリッカは、空に浮かぶ月の光を遮るようにして、大きな影がこちらへ向かって飛んでくるのを見た。

 巨大な竜だった。その姿を認めた瞬間、リッカは反射的に身構える。竜は家の上空を数度旋回するとそのまま高度を下げ、リッカの部屋の開け放たれた窓のすぐ近くまでやってきた。そして、まるでリッカを誘うかのように翼を大きく広げ、空中で静止した。

 その様子を見て、グリムは躊躇することなく軽々と窓枠を乗り越え、空中へと躍り出た。そして、空中に留まる竜の背に乗ると、リッカに向かって声をかける。

「ほれ。行くで!」
「え? いや、グリムさん……」

 突然の出来事に、リッカは一瞬思考を停止させる。

(ど……どうしよう……)

 しかし、リッカが迷っている間にも、事態は刻一刻と進んでいく。

「何をしとんねん! はよ乗りーな」

 グリムの急かす言葉に、リッカは覚悟を決める。

「わ、わかりました」

 意を決したリッカは、窓枠に足を掛けると、そこから勢いよく飛び出した。空中に投げ出されたリッカは、次にくるであろう衝撃に身を固くする。だが、その瞬間が訪れることはなく、バスンと柔らかい物にリッカの体は抱き留められた。

 恐る恐る目を開けたリッカは、自分の体を受け止めてくれた物の正体を見て驚く。それは、竜の大きな翼だった。
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