42 / 374
新人魔女と師匠の静かなる時間(2)
しおりを挟む
少し気になったが、しかし父のことだ。朝までに帰ると約束しているなら大丈夫だろうと、自身を納得させリッカも自室へと引き返した。
そして、自室の扉を開けたちょうどその時―――。
突然、室内の家具という家具がカタカタと音を立て始めた。リッカは、驚き咄嵯に身構える。
直後、開け放したままだった窓から、光の文字のようなものがいくつも飛び込んできた。文字は光の帯となって部屋の中を縦横無尽に飛び回る。そして、その文字の群れはやがて綺麗に整列したかと思うと、空中に紋様を形作った。
(これは……?! )
宙に浮かんだ文字列を見て、リッカは思わず息を飲む。
(間違いない。これは魔法術式の一種だ)
緻密な構成を見る限り、かなり高位の魔法術式で組まれたものであることは明白だった。
(こんなものを描けるのは、恐らく……)
驚きつつも、こんなことができる人物の顔をリッカが思い浮かべていると、空中に描かれていた魔法術式が強い輝きを放ち始める。次の瞬間、そこから白猫のぬいぐるみが現れた。
リッカの部屋に現れた白猫は、ふわりと床に降り立った。その動きを呆然と見つめていたリッカだったが、ハッと我に返ると慌てて声を上げた。
「グリムさん! どうしたんですか?!」
すると、翡翠色の瞳をきらりと光らせて白猫が口を開いた。
〈夜遅くすまない。今すぐ工房に来てくれ〉
その言葉を聞いた瞬間、リッカは自分の体に緊張が走るのを感じた。いつものグリムとは異なる声音に、リッカの全身が強張る。
〈君に頼みたいことがあるのだ〉
いつもと違う様子のグリムに戸惑いながらもリッカは答える。
「それは構いませんが、一体どうされたのですか?」
〈詳しい話はあとでする。とにかく今は時間が惜しい。急いで工房に来てくれ〉
「わ、わかりました」
有無を言わさぬ口調で告げられ、リッカは戸惑う。だが、いつもと様子が異なるとはいえ、相手はグリムであることに変わりはない。リッカは、とりあえず言われた通りに従うことにした。
「すぐに着替えますので、少々お待ちください」
リッカが返事をすると、それを合図にしたかのように、空中に描いた魔法術式は跡形もなく消えた。それと同時に、部屋の中に満ちていた魔法の気配も霧散した。
リッカはすぐにクローゼットへと向かう。
「一体何があったのでしょうか……」
小さく呟きながら、リッカは手早く支度にかかる。数分後、身なりを整えたリッカは、まだ自室に留まっていた白猫に声をかけた。
そして、自室の扉を開けたちょうどその時―――。
突然、室内の家具という家具がカタカタと音を立て始めた。リッカは、驚き咄嵯に身構える。
直後、開け放したままだった窓から、光の文字のようなものがいくつも飛び込んできた。文字は光の帯となって部屋の中を縦横無尽に飛び回る。そして、その文字の群れはやがて綺麗に整列したかと思うと、空中に紋様を形作った。
(これは……?! )
宙に浮かんだ文字列を見て、リッカは思わず息を飲む。
(間違いない。これは魔法術式の一種だ)
緻密な構成を見る限り、かなり高位の魔法術式で組まれたものであることは明白だった。
(こんなものを描けるのは、恐らく……)
驚きつつも、こんなことができる人物の顔をリッカが思い浮かべていると、空中に描かれていた魔法術式が強い輝きを放ち始める。次の瞬間、そこから白猫のぬいぐるみが現れた。
リッカの部屋に現れた白猫は、ふわりと床に降り立った。その動きを呆然と見つめていたリッカだったが、ハッと我に返ると慌てて声を上げた。
「グリムさん! どうしたんですか?!」
すると、翡翠色の瞳をきらりと光らせて白猫が口を開いた。
〈夜遅くすまない。今すぐ工房に来てくれ〉
その言葉を聞いた瞬間、リッカは自分の体に緊張が走るのを感じた。いつものグリムとは異なる声音に、リッカの全身が強張る。
〈君に頼みたいことがあるのだ〉
いつもと違う様子のグリムに戸惑いながらもリッカは答える。
「それは構いませんが、一体どうされたのですか?」
〈詳しい話はあとでする。とにかく今は時間が惜しい。急いで工房に来てくれ〉
「わ、わかりました」
有無を言わさぬ口調で告げられ、リッカは戸惑う。だが、いつもと様子が異なるとはいえ、相手はグリムであることに変わりはない。リッカは、とりあえず言われた通りに従うことにした。
「すぐに着替えますので、少々お待ちください」
リッカが返事をすると、それを合図にしたかのように、空中に描いた魔法術式は跡形もなく消えた。それと同時に、部屋の中に満ちていた魔法の気配も霧散した。
リッカはすぐにクローゼットへと向かう。
「一体何があったのでしょうか……」
小さく呟きながら、リッカは手早く支度にかかる。数分後、身なりを整えたリッカは、まだ自室に留まっていた白猫に声をかけた。
2
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる