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新人魔女と白紙の魔術書(1)
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新人魔女リッカは、今日もまだ日が昇りきる前に勤め先である『マグノリア魔術工房』へやって来た。
「おはようございます」
「おー、おはようさん」
扉を開けて挨拶すれば、珍しく返事が返ってきた。のだが――
「……あれ?」
部屋の中を見渡してリッカは首を傾げる。いつもなら、この時間にはもう工房にいるはずの師匠であり工房主であるリゼの姿が見当たらないのだ。
それでは、一体誰がリッカに挨拶を返したのだろうかと不思議に思い、辺りを見回していると背後から再び声を掛けられた。
「よう新人。毎日、早いな」
振り返るも、やはり誰の姿もない。
「……えっと……」
声の主を探してリッカがキョロキョロしていると、また話しかけられる。
「こっちやこっち! 下や!」
その言葉に従い視線を下げると、そこには翡翠色の瞳をきらりと光らせた一匹の白猫がいた。
「……ねこ? あれ? この子どこかで見たことがあるような……」
どこだったかと考え込むリッカに向かって、猫はその小さな口を開いた。
「毎日会ぉてるのに気付かへんなんて、えげつないな!」
そう言って、ぷんすかと頬を膨らませる白猫。そう言われると確かに、その姿に見覚えがあった。
「まさか、リゼさんがよく抱いているあの、ねこのぬいぐるみ!?」
思わず大きな声で叫んでしまった。しかしそれも仕方のないことだと言えるだろう。何せ、目の前にいるのは、喋る白猫なのだから。
突然叫んだリッカの声を聞いて驚いたのか、白猫はびくっとして目を大きく見開いている。その姿は、まさにぬいぐるみのようだった。
リッカと白猫は互いをじっと見つめ合う。そして沈黙が流れること数秒。先に口を開いたのは、白猫の方であった。
「あー……まさかわいの存在に気がついていんかったとはな。さすがのわいでも傷つくぞ」
しょんぼりした様子でそう言うと、白猫はその場にぺたんと座り込んでしまった。そんな姿を見て慌てたリッカは、急いで謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなさい! わたし、あまり魔力を感じ取るの得意じゃなくて……」
すると白猫は再び顔を上げて言った。
「まぁ、そうかも知れんな。そんだけ膨大な魔力を垂れ流しとったら、周りの微魔力なんか感じ取れなくても無理はおまへん。わいは省魔力化したただの使い魔やからな。主人であるリゼラルブ以外に気付いて貰えへんくて当たり前やねん」
白猫は悲しげに目を伏せリッカの足下をとぼとぼと歩き過ぎていく。
(ど、どうしよう。傷つけたかしら)
「おはようございます」
「おー、おはようさん」
扉を開けて挨拶すれば、珍しく返事が返ってきた。のだが――
「……あれ?」
部屋の中を見渡してリッカは首を傾げる。いつもなら、この時間にはもう工房にいるはずの師匠であり工房主であるリゼの姿が見当たらないのだ。
それでは、一体誰がリッカに挨拶を返したのだろうかと不思議に思い、辺りを見回していると背後から再び声を掛けられた。
「よう新人。毎日、早いな」
振り返るも、やはり誰の姿もない。
「……えっと……」
声の主を探してリッカがキョロキョロしていると、また話しかけられる。
「こっちやこっち! 下や!」
その言葉に従い視線を下げると、そこには翡翠色の瞳をきらりと光らせた一匹の白猫がいた。
「……ねこ? あれ? この子どこかで見たことがあるような……」
どこだったかと考え込むリッカに向かって、猫はその小さな口を開いた。
「毎日会ぉてるのに気付かへんなんて、えげつないな!」
そう言って、ぷんすかと頬を膨らませる白猫。そう言われると確かに、その姿に見覚えがあった。
「まさか、リゼさんがよく抱いているあの、ねこのぬいぐるみ!?」
思わず大きな声で叫んでしまった。しかしそれも仕方のないことだと言えるだろう。何せ、目の前にいるのは、喋る白猫なのだから。
突然叫んだリッカの声を聞いて驚いたのか、白猫はびくっとして目を大きく見開いている。その姿は、まさにぬいぐるみのようだった。
リッカと白猫は互いをじっと見つめ合う。そして沈黙が流れること数秒。先に口を開いたのは、白猫の方であった。
「あー……まさかわいの存在に気がついていんかったとはな。さすがのわいでも傷つくぞ」
しょんぼりした様子でそう言うと、白猫はその場にぺたんと座り込んでしまった。そんな姿を見て慌てたリッカは、急いで謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなさい! わたし、あまり魔力を感じ取るの得意じゃなくて……」
すると白猫は再び顔を上げて言った。
「まぁ、そうかも知れんな。そんだけ膨大な魔力を垂れ流しとったら、周りの微魔力なんか感じ取れなくても無理はおまへん。わいは省魔力化したただの使い魔やからな。主人であるリゼラルブ以外に気付いて貰えへんくて当たり前やねん」
白猫は悲しげに目を伏せリッカの足下をとぼとぼと歩き過ぎていく。
(ど、どうしよう。傷つけたかしら)
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