上 下
6 / 374

新人魔女は、のんびり森で暮らしたい!(6)

しおりを挟む
「わぁ! すごくきれい!」
「おおっ。立派だな」

 ジャックスもリッカの隣に立ってヒヤシンを見上げた。大男のジャックスでさえ見上げなければいけないほど、その花は大きかった。リッカはジャックス以上に顔を上に向け、真剣な眼差しでヒヤシンの花を観察していた。

 しばらく眺めた後、リッカはジャックスの方を見て言った。

「ジャックスさん、少し離れていてください」
「お? わかった」

 ジャックスは言われた通り距離を取る。ジャックスが離れたのを確認したリッカは、小さく息を吐いた。

 そして―――

 小さな手のひらを標的である巨大な花の根元へと向けると、呟くような声で魔法を唱えた。

「〈雷電ライディン〉」

 すると、掌に青白い光が灯った。その光は徐々に強くなっていく。そして、次の瞬間、轟音と共に激しい雷撃が放たれた。

 強烈な閃光に目が眩む。

 しばらくしてから、ジャックスはゆっくりと瞼を開いた。するとそこには、先程までの光景はなかった。地面は大きくえぐれ、土埃が立ち上っている。そして、その中心には、黒焦げになったヒヤシンの姿があった。

「……」

 ジャックスはその光景に絶句した。

 リッカは土埃で汚れたスカートの裾を、ぱんぱんっと叩いて払う。それからジャックスの方を見ると、申し訳なさそうに言った。

「あ、あの……。もしかして、ちょっとやり過ぎちゃいました?」
「いや……」

 ジャックスは、目の前で起きたことが信じられなかった。ジャックスは自分の頬をつねってみる。痛かった。夢ではないようだ。

(これで新人魔女だと……。とんでもないな)

 ジャックスは呆然としたままリッカを見た後、苦笑した。

「しっかし、驚いたな。まさかあんな強力な攻撃ができるなんて」
「あはは。ありがとうございます」
「さっきの魔法、詠唱破棄だったよな?」

 ジャックスは感心したように言った。詠唱破棄とは、術名を短く唱えることで、魔法の発動時間を短縮する技術だ。熟練の魔法使いでも難しいと言われている。ジャックスが知る限りでは、詠唱破棄が出来る魔法使いはリゼだけだった。しかし、リッカはそれを難なくやって見せた。

 リッカは照れ臭そうに頭を掻いて答える。

「はい。一応」
「一応って……嬢ちゃん、思ってたよりもすごい奴だな」
「いえ。まだまだです」

 リッカは謙遜して笑う。

(本当にこの子は……規格外だな。才能もだが……何より、努力家でもあるんだろうな。だからこその自信か……)

 ジャックスはリッカの評価を改めることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...