新人魔女は、のんびり森で暮らしたい！

新人魔女は、のんびり森で暮らしたい！（５）

　二人が工房へ戻ると、リゼは玄関先で腕を組んで立っていた。その顔は険しい。リゼの姿を見て、リッカは慌てて頭を下げた。

「あ、あの……。お待たせしてすみません……」

　そう言って、リッカはヒヤシンが詰まった籠を差し出した。しかし、リゼは何も言わず、じっとリッカを見つめるだけで受け取ろうとしない。リッカはその鋭い眼差しに耐えられず、顔を伏せてしまった。

「……ふんっ」

　リゼは小さく鼻を鳴らすと、くるりと背を向けた。そして、つかつかと工房の奥へと消えていった。

「はぁ……怒らせてしまいました」

　リッカは悲しげに呟きながら、しょんぼりとした様子で肩を落とした。

「ったく……しょうがないな、あいつは」

　ジャックスは呆れたように頭を掻いた。それから工房へ向けて大きな声を張り上げた。

「おい！　リゼ！　いい加減にしやがれ！！　お前の欲しがってた助手だぞ！！　それもとびきり優秀な奴だ！！　こいつを逃がしたら二度とお前のところに助手は来ないぞ！！」

　すると、バタンと大きな音を立てて工房の扉を開け放ち、リゼが姿を現した。

「うるさい！　調合の邪魔だから黙れ！！」
「だったら、さっさとこの嬢ちゃんと雇用契約を交わせ！ この馬鹿！」

　リゼはジャックスが勢いよく突き出した書類を煩わしそうに奪い取ると、目も通さずペンを走らせてサインをした。その契約書を確認したジャックスは、満足そうにリッカに向かって言う。

「よし、これで契約完了だ。こいつのこと、よろしく頼むぜ、嬢ちゃん」
「えっ？　あ、はい！」

　リッカは慌ててジャックスに向かって返事をした。しかし、すぐにリゼの方を見て心配そうな表情をする。

「あの……。本当に雇っていただけるんですか？」
「ああ、そうだ。ただし、私は厳しいからな」

　リゼは冷たく言い放つと、リッカに背を向ける。

「ありがとうございます！　がんばります！」

　リッカは声を張り上げ、深々と頭を下げる。チラリと振り返ったリゼは、少し顔を顰めてみせた。

「まぁ……せいぜいがんばれよ。とりあえず、採取してきたヒヤシンを乾燥させておけ」

　その言葉にリッカの顔がぱっと明るくなった。

「はい！」

　元気よく答えると、リッカは再び頭を下げた。

　こうしてリッカの森での生活が始まった。ジャックスは仕事があると街へ戻っていき、リゼは工房の奥の部屋へと消えた。

　静かになった工房前の庭に一人残されたリッカは、鼻歌混じりに早速作業に取り掛かる。これからのスローライフに思いを馳せながら。