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私は少しだけ頬を緩める。
「どうでしょう? 自分ではあまり変わっていないように思うのですが……でも、まぁ、出会った頃は確かに子供でした。この場所へ来られるのも、夏の休みだけでしたから」
「あの頃は、親御さんに連れられて来ていたんだったね」
私は、コクリと相槌を打つ。
白鳥さんと彼に出会ったのは、15の夏休みだった。
毎年、私は親に連れられて夏休みの数日の間、この地で余暇を過ごしていた。小さな頃は、見知らぬ土地ということもあり、一人で出歩くことは許されなかったのだが、その年は、一人で街の散策をしていた。何故だったのかは覚えていない。親と喧嘩をしたのか、それとも、多少なりとも一人で行動できる程に親離れをしていたのか。
波打ち際に一人佇み、寄せては返す海を見つめていた私に、声をかけて来たのが白鳥さんと彼だった。
「きみ、一人?」
見知らぬ男性たちに、身を固くしていると、私の警戒心を悟ってか、白鳥さんは、笑みを見せた。
「あぁ、急に声をかけてごめんね。きみ、あまり見かけない子だから、心配になっちゃって」
「なんですか?」
棘を纏った声で問い返すが、白鳥さんはそんな私の態度に気分を害することもなく、穏やかな笑みのまま、手を差し出してきた。
「もうすぐ満潮になる。満潮になると、ここは沈んでしまって危ないから、僕らと安全なところへ行こう」
「大丈夫です。水が来れば、私だって分かります。お気遣いなく」
見知らぬ男性たちに、易々とついて行くほど私は子どもではなかった。白鳥さんの手をチラリと一瞥した後、私は彼らを棘のある言葉で突き放した。
そんな私の言葉に先に踵を返したのは彼だった。白鳥さんの隣に居ながら、ただただ訝しげな視線を私に向けてきていた彼は、一言も言葉を発せずに、背を向けて去っていった。
「ちょっと待てよ。晴彦」
去って行く彼の背中に慌てたように声をかけた白鳥さんは、困ったように私と彼の背中を交互に見比べていたが、頑なに無視を決め込む私に諦めたのか、やがて差し出していた手を下ろすと、口早に言った。
「本当に早く浜から上がるんだよ。じゃあね」
彼らが去り、再び波音だけが辺りに響く。私は目を閉じ、無心で波音に包まれていた。近づき、離れ、また近づく。そんな規則正しい音が、思春期真っ只中の歪な形をした私の心を平らにしてくれるように感じていた。
心が軽くなったような気がして目を開ける。いつの間にか、水が目前まで迫ってきていた。
「どうでしょう? 自分ではあまり変わっていないように思うのですが……でも、まぁ、出会った頃は確かに子供でした。この場所へ来られるのも、夏の休みだけでしたから」
「あの頃は、親御さんに連れられて来ていたんだったね」
私は、コクリと相槌を打つ。
白鳥さんと彼に出会ったのは、15の夏休みだった。
毎年、私は親に連れられて夏休みの数日の間、この地で余暇を過ごしていた。小さな頃は、見知らぬ土地ということもあり、一人で出歩くことは許されなかったのだが、その年は、一人で街の散策をしていた。何故だったのかは覚えていない。親と喧嘩をしたのか、それとも、多少なりとも一人で行動できる程に親離れをしていたのか。
波打ち際に一人佇み、寄せては返す海を見つめていた私に、声をかけて来たのが白鳥さんと彼だった。
「きみ、一人?」
見知らぬ男性たちに、身を固くしていると、私の警戒心を悟ってか、白鳥さんは、笑みを見せた。
「あぁ、急に声をかけてごめんね。きみ、あまり見かけない子だから、心配になっちゃって」
「なんですか?」
棘を纏った声で問い返すが、白鳥さんはそんな私の態度に気分を害することもなく、穏やかな笑みのまま、手を差し出してきた。
「もうすぐ満潮になる。満潮になると、ここは沈んでしまって危ないから、僕らと安全なところへ行こう」
「大丈夫です。水が来れば、私だって分かります。お気遣いなく」
見知らぬ男性たちに、易々とついて行くほど私は子どもではなかった。白鳥さんの手をチラリと一瞥した後、私は彼らを棘のある言葉で突き放した。
そんな私の言葉に先に踵を返したのは彼だった。白鳥さんの隣に居ながら、ただただ訝しげな視線を私に向けてきていた彼は、一言も言葉を発せずに、背を向けて去っていった。
「ちょっと待てよ。晴彦」
去って行く彼の背中に慌てたように声をかけた白鳥さんは、困ったように私と彼の背中を交互に見比べていたが、頑なに無視を決め込む私に諦めたのか、やがて差し出していた手を下ろすと、口早に言った。
「本当に早く浜から上がるんだよ。じゃあね」
彼らが去り、再び波音だけが辺りに響く。私は目を閉じ、無心で波音に包まれていた。近づき、離れ、また近づく。そんな規則正しい音が、思春期真っ只中の歪な形をした私の心を平らにしてくれるように感じていた。
心が軽くなったような気がして目を開ける。いつの間にか、水が目前まで迫ってきていた。
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