夏の大三角関係

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
2 / 8

p.2

しおりを挟む
 私は少しだけ頬を緩める。

「どうでしょう? 自分ではあまり変わっていないように思うのですが……でも、まぁ、出会った頃は確かに子供でした。この場所へ来られるのも、夏の休みだけでしたから」
「あの頃は、親御さんに連れられて来ていたんだったね」

 私は、コクリと相槌を打つ。

 白鳥さんと彼に出会ったのは、15の夏休みだった。

 毎年、私は親に連れられて夏休みの数日の間、この地で余暇を過ごしていた。小さな頃は、見知らぬ土地ということもあり、一人で出歩くことは許されなかったのだが、その年は、一人で街の散策をしていた。何故だったのかは覚えていない。親と喧嘩をしたのか、それとも、多少なりとも一人で行動できる程に親離れをしていたのか。

 波打ち際に一人佇み、寄せては返す海を見つめていた私に、声をかけて来たのが白鳥さんと彼だった。

「きみ、一人?」

 見知らぬ男性たちに、身を固くしていると、私の警戒心を悟ってか、白鳥さんは、笑みを見せた。

「あぁ、急に声をかけてごめんね。きみ、あまり見かけない子だから、心配になっちゃって」
「なんですか?」

 棘を纏った声で問い返すが、白鳥さんはそんな私の態度に気分を害することもなく、穏やかな笑みのまま、手を差し出してきた。

「もうすぐ満潮になる。満潮になると、ここは沈んでしまって危ないから、僕らと安全なところへ行こう」
「大丈夫です。水が来れば、私だって分かります。お気遣いなく」

 見知らぬ男性たちに、易々とついて行くほど私は子どもではなかった。白鳥さんの手をチラリと一瞥した後、私は彼らを棘のある言葉で突き放した。

 そんな私の言葉に先にきびすを返したのは彼だった。白鳥さんの隣に居ながら、ただただ訝しげな視線を私に向けてきていた彼は、一言も言葉を発せずに、背を向けて去っていった。

「ちょっと待てよ。晴彦」

 去って行く彼の背中に慌てたように声をかけた白鳥さんは、困ったように私と彼の背中を交互に見比べていたが、頑なに無視を決め込む私に諦めたのか、やがて差し出していた手を下ろすと、口早に言った。

「本当に早く浜から上がるんだよ。じゃあね」

 彼らが去り、再び波音だけが辺りに響く。私は目を閉じ、無心で波音に包まれていた。近づき、離れ、また近づく。そんな規則正しい音が、思春期真っ只中の歪な形をした私の心を平らにしてくれるように感じていた。

 心が軽くなったような気がして目を開ける。いつの間にか、水が目前まで迫ってきていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

そんな目で見ないで。

春密まつり
恋愛
職場の廊下で呼び止められ、無口な後輩の司に告白をされた真子。 勢いのまま承諾するが、口数の少ない彼との距離がなかなか縮まらない。 そのくせ、キスをする時は情熱的だった。 司の知らない一面を知ることによって惹かれ始め、身体を重ねるが、司の熱のこもった視線に真子は混乱し、怖くなった。 それから身体を重ねることを拒否し続けるが――。 ▼2019年2月発行のオリジナルTL小説のWEB再録です。 ▼全8話の短編連載 ▼Rシーンが含まれる話には「*」マークをつけています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...