雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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エピローグ

エピローグ(16)

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 恥ずかしさを誤魔化すように笑う。すると、青島くんは真剣な表情で言った。

「きっと、大切な思い出に心が触れたんだろ。それだけこの花は白野にとって特別ってことさ」

 私は思わず息を呑む。この花にまつわる記憶を私は自分の心の中に探したけれど、見つからない。それでも、青島くんが言うように、この花が私にとって特別な存在であることだけは間違いない気がした。

 私は、花と、そして青島くんの顔を交互に見た。すると、彼が小さく笑みを浮かべる。

「白野、また来年も見に来るか?」

 その言葉に私は胸がいっぱいになる。

「うん! もちろん!」

 満面の笑顔で答えると、青島くんは満足げに笑ってくれた。

 ホワイトエンジェルの花が満開になるのは、一年先。これから一年の間に私たちは一体どんな想い出を作るのだろう。

 今はまだ想像もつかない未来を思って、私がそっと微笑んだとき、リンッと鈴の音が響き、ふわりとした優しい風が私の頬を撫でた。

“たくさん喜んで、時には怒って、悲しんで、精一杯楽しんで、そんなたくさんの感情を大切に大切に積み重ねて。僕はいつだってきみのそばで見守っているから。だから、どうか――幸せでいてね”

 そんな声が聞こえたような気がして、風が走り去った方へ目をやる。しかし誰もいない。けれど、誰かがそこにいるような気がして、私は力強くうなずいた。

 空は快晴。柔らかな陽光が私たちに降り注ぐ。春風に吹かれ、ホワイトエンジェルの花が、優しく風に揺れていた。




Fin
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