雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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エピローグ

エピローグ(10)

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「アーラの祈りが届いたみたいだね」
「そう。それなら良かった」

 私が安堵の笑みを見せると、フリューゲルも微笑み返してくれる。それから、緩めていた頬を少しだけきりりと引き締めると、フリューゲルは私の目をじっと見つめてきた。

「何?」
「僕は少しお役目ができたから、しばらくきみのそばを離れるよ。だけど、僕はきみの守護天使。必ずきみの元に戻ってくるからね」
「え? うん?」

 フリューゲルが何を伝えたいのかよく分からなくて、私は曖昧に頷く。

 私たちがコソコソと言葉を交わしているあいだに、桜の花びらが溶けた空からは、全てを包み込むかのような暖かい光が降り注いできていた。中庭に降り注ぐ光は、次第に強く眩しくなり、やがて、そこらじゅうの花壇が金色に包まれた。照り返す光の眩しさに私は思わず目を細める。

 不意に、フリューゲルの声が響いた。耳にではなく、直接頭の中に響く。フリューゲルの声は、いつものように穏やかで、しかし凛としていた。まるで、司祭様がお話されているときのように聞こえる。

“そろそろ時間です。いいですか?”

 フリューゲルのその問いかけに、しっかりと目を見開こうとしたが、今はもう光が全てを飲み込まんとするかのように眩しさを増していて、目を開けることができない。

「もうちょっと。あと少しだけ待ってください」

 光の中、ココロノカケラの女の子の声が響いた。まるでその言葉が光を振り払ったのか、痛いくらいに眩しさを放っていた光が幾分弱まるのを瞼の裏で感じる。やがて、目を開けられるほどの光量になりそっと目を開けると、満足そうな女の子の笑顔が、満開のスターチスの花の中にあった。

 その場にいた誰もが女の子の笑みを見つめている。

 そうか。皆にもあの子のことが見えるのね。もう本当にお別れなのだ。そう悟った私は、フリューゲルの姿を探す。いつの間にかフリューゲルは、背中の羽を広げ私たちの頭上に浮き上がっていた。背後から光を浴びたその姿はとても尊く光り輝いていて、まさに天使様そのものだった。

 私が、見慣れているはずのフリューゲルの姿に見惚れている間にも、女の子の口からは友人に向けて別れの言葉が紡がれる。

 別れを惜しみ、鼻を啜り泣き止まない友人たちを宥めていた女の子が不意に思い付いたように、「あっ」と声を上げた。

「センパイ。スターチスが咲いたら、二人に渡してほしいの。お願いできる?」
「うん。いいよ」
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