雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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エピローグ

エピローグ(8)

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「一体どういうことなんだ? 時間がないって……そんなの、まるで……」

 男子生徒は、その言葉の意味を察したようだったが、その先は口にしたくないという風に、頭を振り俯いてしまった。そんな彼に、私は言葉を投げる。

「時間がないというのは、言葉の通りだよ。ココロノカケラは、強い思いが、この地に残って、形を成しているものなの。だから、その思いが遂げられれば、無に還ることになる」
「……そんな……」

 私の言葉に女子生徒が息を飲んだ。

「でも、きみ達だって本当は分かっていたんじゃない? いつかは別れの時が来るってこと。それに、彼女は、もうその時が近いことを悟っているよ」

 先ほどまで、緑の絨毯を無邪気に眺めていたはずのココロノカケラの女の子は、いつの間にか友人たちをしっかりと見つめ、寂しそうな笑みを浮かべていた。

 そんな女の子に友人たちはソロリと近づいていく。互いにはっきりと別れを意識した彼らのそばから私とフリューゲルは、そっと離れた。最後の時間は、気の置けない者たちだけで、大切に過ごしてほしい。そう思いながら、私は傍らの双子をチラリと見上げた。私もその時のための心の準備をしておかなくては。

 彼らの輪から少し離れたところの花壇の様子を見ながら、私はそっとフリューゲルに声をかける。

「ねぇ、フリューゲル。私もあの子のこと忘れちゃうのかな?」
「ん? まぁ、そうだろうね。完全に融合が終わってしまえば、きっと」
「そっか。そうだよね……せっかく仲良くなれたのに忘れてしまうなんて寂しいな」

 ほんの少し交流を持っただけの私ですら、寂しいと感じてしまうのだから、涙ながらに別れを嫌がっている彼らの気持ちを思うと胸が苦しくなった。

「天使様の力で何とかしてあげられないの?」
「僕はアーラの、白野つばさの守護天使で、きみを見守ることが役目なの。他者に干渉できるような力は持ってないよ」
「なんだ。天使様って言っても、大して役に立たないのね」

 私が唇を尖らせると、フリューゲルにジロリと睨まれた。以前よりも随分と感情豊かになったフリューゲルの怖い顔に思わず肩を竦める。

「ごめん。言い過ぎました」

 項垂れながら謝ると、私の肩にフリューゲルの手がポンと置かれた。

「まぁ、アーラが何とかしてあげたいって気持ちは分かるけどさ、本当に僕たちには何もできないんだよ」
「……そう、だよね」
「……僕たちに出来ること。それは、ただ祈ることだよ」
「祈る?」
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