雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
111 / 124
エピローグ

エピローグ(4)

しおりを挟む
 フリューゲルに聞こえないように小さな声でぽつりとつぶやく。それでも双子の片割れはそんな私の声すらも逃さずに拾ってしまう。

「アーラのせいじゃないよ。僕が神さまに望んで、それを神様と大樹様リン・カ・ネーションが受け入れてくれたんだから。きっと、僕が天使になるためには、アーラと庭園ガーデンで過ごす日々も必要な事だったんだ。それが分かっていたから大樹様リン・カ・ネーションは自身のお力を使ってでもアーラを庭園に迎えてくれたんだよ」
「そうかしら?」
「うん。僕はそう思ってる。僕が守護天使になると決めたのは、きみのそばを離れたくないからだもの。そう思えるのは、やっぱり庭園ガーデンでの日々があったからだからさ。アーラが庭園にいたことは必然だったんだよ。きみが気に病むことは何もないさ」
「……そうだといいな。私も、フリューゲルといつも一緒にいられて楽しかったもの。そうね。もう気にするのは止めにするわ。私をここまで育んでくれた大樹様リン・カ・ネーションにも、司祭様にも失礼な気がするし」

 私達は互いに笑みを交わす。こうして話していることさえ、近いうちに忘れてしまうのは、とても寂しい。それでも、私は塞ぎこんだりしたくない。今しかできないフリューゲルとの交流を心の底から楽しみたい。アーラが消えてしまっても、フリューゲルは絶対に覚えていてくれる。彼の中に残るアーラが寂しいものにならないように。悔いの遺した顔を彼の中に刻みつけないように。私はいつだって笑っていたい。

 心配事をまた一つ吹っ切り口元を緩めている私に、心配そうにフリューゲルが顔を覗き込んできた。

大樹様リン・カ・ネーションのことは、心配しなくても大丈夫。僕はまだきみの守護天使以外のお役目は頂いていないけれど、司祭様にお願いをして、これからは司祭様とともに僕も大樹様リン・カ・ネーションのお世話をさせてい頂くことにしたから。といっても、基本的には大樹様リン・カ・ネーションはご自身のお力で大きくおなりだから、僕たちは見守ることくらいしかできないみたいなんだけどね。でも、もし万が一、今回みたいに、大樹様リン・カ・ネーションに何かあった時は、僕が全力でお世話することを約束するよ」

 フリューゲルの言葉に安堵し頷くと、彼は、「だから」と言葉をつなげる。

「僕のためにも、学びをやめるなんて言わないでよ」
「……どういうこと?」
「僕は、きみのそばでもっと人の気持ちも植物の気持ちも知りたいんだ。アーラだって、本当はもう園芸の虜なんだろ? 知ってるよ。きみがいつも泥だらけになりながらも、常に口元が緩んでいること」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

立花家へようこそ!

由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・―――― これは、内気な私が成長していく物語。 親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

ママは週末VTuber ~社長が私のファンですか?~

富士とまと
ライト文芸
深山結衣(38):高校生の息子を持つシングルマザー 東御社長(40):隠れオタクのイケメン/ 深山はある日息子に頼まれてVチューバーデビューをすることに。中堅建築会社で仕事をしながら週末は生放送。取引先の女嫌いの東御社長になぜか目をつけられて……。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

【完結】離婚の危機!?ある日、妻が実家に帰ってしまった!!

つくも茄子
ライト文芸
イギリス人のロイドには国際結婚をした日本人の妻がいる。仕事の家庭生活も順調だった。なのに、妻が実家(日本)に戻ってしまい離婚の危機に陥ってしまう。美貌、頭脳明晰、家柄良しの完璧エリートのロイドは実は生活能力ゼロ男。友人のエリックから試作段階の家政婦ロボットを使わないかと提案され、頷いたのが運のツキ。ロイドと家政婦ロボットとの攻防戦が始まった。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

処理中です...