雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
109 / 124
エピローグ

エピローグ(2)

しおりを挟む
 私の言葉につられるようにして、フリューゲルが空を仰ぎ見た。私ももう一度青い空を見上げる。薄い雲がたなびく春の空に、珍しく大きな雲の塊を見つけた。

「見てフリューゲル。大きな雲の塊。もしかして、あの雲の向こう側に庭園ガーデンがあるのかしら?」

 何気なく零れ落ちた私の郷里への想いを、フリューゲルはふわりとした笑顔で受け止めた。フリューゲルは以前から落ち着いていたけれど、天使様になってからはさらに落ち着きを増して、最近は、もう何にも動じないのではないかとすら感じることがある。これが成長するということなのだろうか。

「ねぇ。結局、フリューゲルは何を学んで天使様になったの?」

 そういえば何となく聞きそびれていたなと思い、私が傍らに立つ彼を見上げると、彼は不思議そうな顔をした。

「あれ? アーラは僕の変化に気がついていなかったの?」
「変化って? 天使様の証である金の環と背中の羽のことならちゃんと分かってるわよ」
「違うよ。そういうことじゃなくて」

 そう言いながらフリューゲルは自分の顔を指差す。私に向かって、ニッコリと微笑むフリューゲル。彼が何を言いたいのか分からなくて、私が首を傾げていると、それを見て呆れた様子のフリューゲルは、今度はムッキーと怒りのポーズをした。

 突然憤慨し始めたフリューゲルに私が目を丸くしていると、今度は哀しそうに眉をひそめる。コロコロと変わる彼の表情に呆気に取られていると、フリューゲルは声を上げて笑い出した。可笑そうに口元を隠しながら、彼は意味ありげに私を見てくる。

「これだけやってもまだ分からない?」
「もしかして……学びって……」

 フリューゲルが言わんとしていたことにようやく気がついた私が彼の顔をじっと見ると、フリューゲルは、またフワリと微笑んだ。

「そう。感情を知ることが僕に課せられた『学び』だったんだ」

 確かに、いつの間にかフリューゲルはよく笑うようになっていた。あまり怒ったり哀しんだりといった素振りは見せないけれど、Noelノエルとして庭園ガーデンにいた頃よりも、随分と表情豊かになっている。

 そのことにはなんとなく気がついていたのに、この世界では感情を表す事が当たり前で、いつの間にか私は、フリューゲルの変化に疑問を持たなくなっていた。それはつまり、私がどっぷりとこの世界に馴染んでいるということでもあるのだが。

「そっか。感情を知るか。それは、庭園ガーデンではなかなか知ることが出来ないもんね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

【完結】離婚の危機!?ある日、妻が実家に帰ってしまった!!

つくも茄子
ライト文芸
イギリス人のロイドには国際結婚をした日本人の妻がいる。仕事の家庭生活も順調だった。なのに、妻が実家(日本)に戻ってしまい離婚の危機に陥ってしまう。美貌、頭脳明晰、家柄良しの完璧エリートのロイドは実は生活能力ゼロ男。友人のエリックから試作段階の家政婦ロボットを使わないかと提案され、頷いたのが運のツキ。ロイドと家政婦ロボットとの攻防戦が始まった。

かのやばら園の魔法使い ~弊社の魔女見習いは契約社員採用となります~

ぼんた
ライト文芸
「魔女になりたいって、普通の人からしたら笑われるようなことを言ってるのかもしれない。だけど……。私は、たとえ周りからバカだのアホだの言われても、自分がやりたいことはやりたいんです!」 主人公のヒカリは、魔女になりたいという強い思いを、命の恩人である魔女に向かって力強く伝える。 そして、高校卒業後に魔法使いが働く会社で、期限付きの契約社員となり、仕事をしながら魔女試験合格を目指す。 少しぶっきらぼうだけど頼りになる青年、いつも優しくたまに子供っぽい先輩、小さくて可愛いのに口が達者な少女など、個性豊かな社員達との新たな生活が始まる。 日々悩み苦しみながらも様々なことに気づき、少しずつ成長していくヒカリのひたむきな姿を描いた物語。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

煩わしきこの日常に悲観

さおしき
ライト文芸
 高校に入学するとき、誰もが憧れを抱いて入学するだろう。ただ、その憧れはすぐに消え去ってしまう。  俺、明坂翔(あけさかかける)は今日で高校生。重い制服を来て、友人の雨宮彼方(あめみやかなた)と初登校を迎えていた。入学後、些細な縁で俺はクラスメイトの嶋田葉月(しまだはづき)と出会い、話すようになる。  そこである日、俺は葉月の思いつきに巻き込まれていく。その一番最初が部活を設立することだった。いきなり俺は部員集めを強要され、彼方、そして幼馴染みの最上雫(もがみしずく)の二人を集めることに成功したが……

妹は欲しがりさん!

よもぎ
ライト文芸
なんでも欲しがる妹は誰からでもなんでも欲しがって、しまいにはとうとう姉の婚約者さえも欲しがって横取りしてしまいましたとさ。から始まる姉目線でのお話。

柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ
ライト文芸
柳兎学園の新入生・ワキミズの目の前に桃色の衝撃とともに現れた留学生・エミィに引き連れられるままに訪れたそこは、現代の文明とは大きくかけ離れた「日本的な文化を探求する同好会」という名目ではあったが、やっていることは時代遅れ! ネットの電波も届かない古めかしい日本家屋でお釜でご飯を炊いたり武術や忍者修行の毎日。それでも気弱な少年が付いてこれるのは美少女留学生と素敵なセンパイたち……のはずだったが!? 住み込み和式部活動小説! 本作品は完成済みです。

独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん
ライト文芸
~以後不定期更新となります~ 両親が他界して引き取られた先で受けた神海恭子の絶望的な半年間。 「……おじさん」 主人公、独身男の会社員(32歳)渡辺純一は、血の繋がりこそはないものの、家族同然に接してきた恭子の惨状をみて、無意識に言葉を発する。 「俺の所に来ないか?」 会社の同僚や学校の先生、親友とか友達などをみんな巻き込んで物語が大きく動く2人のハートフル・コメディ。 2人に訪れる結末は如何に!?

処理中です...