雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(31)

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 庭園ガーデンでいつも見せる凛としたお顔で、司祭様は私たちを交互に見やる。

「貴方方の絆がそれだけ深かった。それだけのことです。どちらが悪いということはありません」
「私達の絆……」

 止まることなくハラハラと零れ落ちる涙を、司祭様はそっと指先で拭ってくださった。そして、じっと私の顔を見つめる。司祭様の瞳が直ぐそばにある。これまで、司祭様のことを何度となく見上げてきたが、こうして真っ直ぐにそのお顔を拝見したことはなかったなと思う。

 相変わらず整った綺麗なお顔を少しだけ曇らせて、司祭様は口を開く。

「アーラ。貴方には大変な思いをさせてしまいましたね。ですが、今回のことは、貴方が本来の魂のもとへスムーズに戻るためには、必要な事だったのだと思います」
「園芸を学ぶことがですか?」
「いいえ。学ぶことは、本来フリューゲルが行うことでした。貴方に必要なことは羽ばたくこと。つまり、庭園ガーデンから巣立っていくことです」

 司祭様の言葉に、私は小さく下唇を噛んだ。ここまで司祭様が仰るのだから、私が庭園に戻ることはもう難しいのだろう。

「通常、魂本体が生活をしていた場所にココロノカケラは現れますから、ココロノカケラが昇華し元の魂と融合しても、特に乖離はおきないでしょう。しかし、貴方の場合は、魂とココロノカケラの有り様があまりにも違い過ぎました。ですから、魂とココロノカケラのすり合わせをゆっくり行うことは、貴方がこれから白野つばさとして生きていくためにも、必要なことだったのだと思います」
「白野つばさとして生きていく……」
「そうです。貴方は消えてしまうわけではありません。白野つばさの一部になるのです」

 私は自分の両手の掌をぼんやりと見る。この体はアーラである自分のものか。それとも、私の本体と言われる、白野つばさのものか。昇華したココロノカケラはどうなるのだろうか。司祭様は消えないという。本当だろうか。

 どんなに考えても、すぐに自分が納得できるだけの答えなど出るはずもない。だけど、私がアーラでいられる時間にはもう限りがある。今確認しておかなくてはいけないことならば、すぐに頭に浮かんだ。

「司祭様、私が庭園ガーデンで過ごした記憶は、私がアーラだったという記憶は、これから先も白野つばさの中に残るでしょうか?」
「……おそらく、残らないでしょう」

 私の問いに、司祭様は寂しげに首を振った。
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