雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
103 / 124
冬の章

冬の章(29)

しおりを挟む
「だから、あなたはあの時、私とあの子が惹き合ったと言ったのね。フリューゲルは、私がココロノカケラだと知っていたから」
「うん。僕と司祭様は、僕たちの記憶の意味を考えたんだ。そして、アーラが本体である白野つばさから分かれてしまった彼女の一部であると結論付けた」
「アーラが他のNoelノエルと違い、下界に強く惹かれていたのは、きっと本体である白野つばさの心が貴方を呼んでいたからなのでしょう」

 私は、フリューゲルと司祭様の声をどこか遠くに聞きながら、胸に溢れかえる想いの渦に飲み込まれていた。

 旅先で両親とともにのんびりと過ごしたこと、お父さんに反発して家を飛び出したこと、そんな私を心配して家の外で帰りを待ってくれていたお母さんの温かい腕の中。

 アーラである私には経験したことのない思い出が、記憶が、心の中を渦巻く。今なら分かる。これは、白野つばさの記憶だ。

 そうは思うのだが、私が私でないと言われてもそんなに簡単には受け入れられない。しかし、受け入れたくない事実に逆らったところで、私の心の中には、下界での幼少期からの記憶が次から次へと溢れ出してきている。記憶の渦に飲まれながら、私はぼんやりと司祭様を見上げた。

「司祭様。先ほど仰られていた、記憶の融合とは一体どういうことでしょうか?」
「本体である白野つばさと彼女のココロノカケラである貴方が一つになり始めているということです」
「一つに?」
「そうです。しかし、それは当然のことと言えるでしょう。今現在、貴方は本体である白野つばさの体に宿り下界で活動しているのです。本体とココロノカケラである貴方が同じ器に宿っているのですから」

 司祭様の淡々とした説明が頭の中で繰り返される。本体である白野つばさ。器を借りた私。本体とココロノカケラの融合。聞き慣れない言葉は、山彦のように私の中で響きわたり、波紋のように混ざり合い大きくなっていく。

 自分の中に響き渡る言葉たちにぼんやりと対峙していた私は、突然雷に打たれたかのようにびくりと身体を震わせた。

「司祭様。ココロノカケラの昇華とは……」

 今度はしっかりと司祭様の目を見て問いかける。できることなら、私の今感じている不安を拭うようなお言葉が欲しい。縋るような視線を司祭様に送ると、私の意図に気がついたのだろうか、司祭様がお顔を曇らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Don't be afraid

由奈(YUNA)
ライト文芸
ここは、何か傷を抱えた人が集まる、不思議な家でした。 * * * 高校を中退してから家族とうまくいかなくなったキャバ嬢のありさ 誰とでも仲良くできるギャルの麗香 普通に憧れる女子高生の志保 勢いで生きてきたフリーターの蓮 親の期待に潰されそうな秀才の辰央 掴みどころのない秘密ばかりの大学生のコウ 全員が、何かを抱えた 全員が主人公の物語。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

ママは週末VTuber ~社長が私のファンですか?~

富士とまと
ライト文芸
深山結衣(38):高校生の息子を持つシングルマザー 東御社長(40):隠れオタクのイケメン/ 深山はある日息子に頼まれてVチューバーデビューをすることに。中堅建築会社で仕事をしながら週末は生放送。取引先の女嫌いの東御社長になぜか目をつけられて……。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

【完結】離婚の危機!?ある日、妻が実家に帰ってしまった!!

つくも茄子
ライト文芸
イギリス人のロイドには国際結婚をした日本人の妻がいる。仕事の家庭生活も順調だった。なのに、妻が実家(日本)に戻ってしまい離婚の危機に陥ってしまう。美貌、頭脳明晰、家柄良しの完璧エリートのロイドは実は生活能力ゼロ男。友人のエリックから試作段階の家政婦ロボットを使わないかと提案され、頷いたのが運のツキ。ロイドと家政婦ロボットとの攻防戦が始まった。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

処理中です...