雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
99 / 124
冬の章

冬の章(25)

しおりを挟む
「え? フリューゲルが助けてくれたの? でも、フリューゲルはNoelノエルで羽はない……いや、でも今は天使様になったから、羽があるわけで……いやいや、でも春の時はNoelノエルで……? え?」
「あはは。混乱しているみたいだね、アーラ」
「ちょっと。笑うことないでしょ。しょうがないじゃない。訳が分からないんだから」

 状況がよく分からなくて混乱している私を見て、フリューゲルは可笑しそうに声をあげて笑う。そんなフリューゲルに向かって私は唇を尖らせた。

「ごめんごめん。そうだよね。分からないよね。僕も初めは混乱したから無理もないね」

 フリューゲルは一頻り笑ったあと、何とか緩んだ頬を引き締め真面目な顔になる。

「司祭様がおっしゃった通り、アーラを助けたのは、春も今回も僕だよ。アーラに会いに下界へ降りた春のあの日、木材がきみ目掛けて滑り落ちるのを見て、助けなくちゃと強く思った。そしたら、僕は天使の力を使ってきみを守ることが出来たんだ」
「それじゃあ、あの時にフリューゲルは天使様になったの? だったら、どうして隠してたのよ?」
「隠していたわけじゃないんだ。僕は、ただ必死だった。きみを守りたくて。だから、天使の力を使えたのはあの時だけで、それからは僕は元のNoelノエルだったんだ」
「そう……なの。不思議なことがあるのね」

 Noelから天使への成長については、私たちには教えられていない。だから、フリューゲルに起きた出来事も、それが正しい成長過程なのか、そうでないのかを私が判断することはできなかった。ただ、Noelである私には、やっぱり羽もなければ金の環もないし、そんな私が天使様のように不思議なご加護の力を使うことも出来ないのだから、これまで私と同じようにNoelの姿だったフリューゲルが、一瞬とは言え天使様の力を使うことが出来たというのは、やはり不思議なことだった。

「それからは、アーラも知っている通り、僕はNoelの姿のまま、いつもきみのそばにいた。きみが下界の人たちと交流を持ち、少しずつ変わっていく姿を近くで見守っていた」
「いつもじゃないわよ……」

 フリューゲルの言葉に、私は小さな声で反論した。その言葉の意味を汲み取ってか、フリューゲルは少し寂しそうに顔に影を落として頷いた。

「うん。あの、秋の日のことだよね。そのこともアーラにちゃんと話さなくちゃね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -

鏡野ゆう
ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。 居酒屋とうてつの千堂嗣治が出会ったのは可愛い顔をしているくせに仕事中毒で女子力皆無の科捜研勤務の西脇桃香だった。 饕餮さんのところの【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』】に出てくる嗣治さんとのお話です。饕餮さんには許可を頂いています。 【本編完結】【番外小話】【小ネタ】 このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪ ・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』 https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ※小説家になろうでも公開中※

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

泣けない、泣かない。

黒蝶
ライト文芸
毎日絶望に耐えている少女・詩音と、偶然教育実習生として彼女の高校に行くことになった恋人・優翔。 ある事情から不登校になった少女・久遠と、通信制高校に通う恋人・大翔。 兄である優翔に憧れる弟の大翔。 しかし、そんな兄は弟の言葉に何度も救われている。 これは、そんな4人から為る物語。 《主な登場人物》 如月 詩音(きらさぎ しおん):大人しめな少女。歌うことが大好きだが、人前ではなかなか歌わない。 小野 優翔(おの ゆうと):詩音の恋人。養護教諭になる為、教育実習に偶然詩音の学校にやってくる。 水無月 久遠(みなづき くおん):家からほとんど出ない少女。読書家で努力家。 小野 大翔(おの ひろと):久遠の恋人。優翔とは兄弟。天真爛漫な性格で、人に好かれやすい。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん
ライト文芸
~以後不定期更新となります~ 両親が他界して引き取られた先で受けた神海恭子の絶望的な半年間。 「……おじさん」 主人公、独身男の会社員(32歳)渡辺純一は、血の繋がりこそはないものの、家族同然に接してきた恭子の惨状をみて、無意識に言葉を発する。 「俺の所に来ないか?」 会社の同僚や学校の先生、親友とか友達などをみんな巻き込んで物語が大きく動く2人のハートフル・コメディ。 2人に訪れる結末は如何に!?

処理中です...