雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(21)

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 あまりに膨大な記憶の渦に呑まれた私は、頭を抱えその場に疼くまる。

 暗闇の中、いつも隣にある小さな手を探していた、まだ小さな小さな私。

 光の海流に流されるようにして明るい世界へやってきた私に、嬉しそうに笑いかけるお母さん。どこかおっかなびっくり覗き込んでくるお父さん。

 うっすらと微笑みを浮かべ、互いに頷き合い喜び合っているNoelノエルと、安堵と困惑を混ぜたようなお顔の司祭様。すぐ近くに聞こえる泣き声は、きっとフリューゲルのものだ。

 ピンクの花びらが降り頻る中を、お父さんとお母さんと手を繋ぎ歩く。

 暗い空をピカッと切り裂くように光る雷を怖がり、お母さんにぎゅっと抱きつけば、暖かい手が私の背中をポンポンと優しく叩く。

 澄み切った空を見上げた私がもっと空に近づきたいと駄々をこねれば、お父さんの大きな手が私を抱きかかえてくれる。

 真っ白い雪の中、私と一緒に雪だるま作りに夢中になるお父さん。雪の冷たさにかじかんで真っ赤に染まった私の手をそっと包んで温めてくれたお母さん。

 いつしかその手は小さくなり、子供Noelのフリューゲルが私の手をしっかりと握り、青と白の世界を歩いている。

 私が知らないはずのお父さんとお母さんの記憶。私が知っている庭園ガーデンでの記憶。それらが次々に私の頭の中を駆け巡る。

 小学校の入学式、遠足、運動会、学芸会、卒業式、中学での部活動、そんな経験のないものまで、まるで経験したことがあるかのように私の頭の中に思い浮かぶ。

「フリューゲル……ねぇ、フリューゲル。これって一体……?」
「白野? どうした、白野? 気分が悪いのか?」

 膨大な記憶に混乱した私は思わず、フリューゲルに助けを求めた。そんな私の切羽詰まった声に青島くんが心配そうに覗き込んできていたが、今は、彼に返事を返す余裕はない。

「ねぇ、フリューゲル。近くにいるんだよね。お願い。出てきて。私、私……」

 収まらない記憶の渦に朦朧としながら、私は立ち上がると、ふらふらとした足取りでどこへ向かうともなしに歩き出した。

「おい。白野。どうしたんだよ。ちょっと待てって」

 呆然とした青島くんの声が背後から追ってきていた。

 些細な日常の記憶が次々と頭の中を流れていき、もう自分がどこにいるのかも分からなくなっていた私は、周りの状況など全く見えていなかった。

 赤信号の横断歩道へふらふらと侵入した私を、車の眩しいヘッドライトと、けたたましいクラクションが襲う。
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