雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
94 / 124
冬の章

冬の章(20)

しおりを挟む
 私の言葉に青島くんはコクリと頷くと、射抜くように真っ直ぐ私の顔を見つめる。あまりにじっと見られ気恥ずかしくなった私は、思わず声が上ずった。

「え? まさかその女の子って、私?」
「あぁ。当時の俺は、まだガキだったから、お前がホテルの客かどうかなんて考えには至らなくて、ただ良い遊び相手が見つかったくらいに思ったんだと思う」
「私と青島くんが一緒に遊んだの?」
「うん。じいちゃんの仕事が終わるまでの、たぶん数時間だと思うんだけど、二人で庭園の中を走り回った。池を覗いたり、芝生で転がったり……」
「私と青島くんが?」

 庭園ガーデンの住人である私と青島くんの間に、そんな思い出があるはずがないと思いながらも、彼が話す情景がすんなりと頭の中に浮かびあがり、あたかも自分がそこにいたようにも感じる。

「俺、ガキだったからさ、その女の子の『つばさ』って名前しか覚えてなくて。顔も全然思い出せないし、どこの誰だかも分からないけど、ただその時の記憶だけが強く心に残ってたんだ」
「そ、それじゃあ……人違いなんじゃ……」

 青島くんの話を聞いているうちに、胸の鼓動が激しくなっていた。震える声で彼の話を遮る私に向かって、青島くんは首を振る。

「入学式の日、偶然校門の前で不安そうな顔で空を見上げているお前の姿を見かけたんだ。その時、それまで全然思い出せなかった女の子の名前が突然頭に閃いたんだ。そうだ。『白野つばさ』だって」
「ほ、ほんとに?」
「ああ。それから俺は、お前のことを探したんだ。同じクラスにはいなかったから、他のクラスを覗いて。で、葉山のクラスにいたお前の姿を見つけて、急いで葉山にお前の名前を確認したんだ。そしたら……」
「白野つばさ、だった?」
「そうだ」

 私の呆然とした言葉に、青島くんは力強く頷いた。その顔をぼんやりと見ながら、どういう事なのかもう完全に分からなくなってしまった私の頭の中では、小さな私と青島くんの駆け回る姿、そして、フリューゲルと手を繋いで庭園ガーデンを駆け回る姿が交錯し、何が本当の記憶なのか判断がつかない。

 頭の処理能力がオーバーヒートしてしまったのか、私は、頭の中でぐるぐると巡る記憶に思わず眉を顰める。

 小さな私。小さな青島くん。小さなフリューゲル。そして、両親とのいろいろな記憶。まだ一年ほどしか一緒に居ないはずの両親との沢山の記憶が、次から次へと映像となって、私の頭の中を駆け巡る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リエゾン~川辺のカフェで、ほっこりしていきませんか~

凪子
ライト文芸
山下桜(やましたさくら)、24歳、パティシエ。 大手ホテルの製菓部で働いていたけれど――心と体が限界を迎えてしまう。 流れついたのは、金持ちのボンボン息子・鈴川京介(すずかわきょうすけ)が趣味で開いているカフェだった。 桜は働きながら同僚の松田健(まつだたける)と衝突したり、訪れる客と交流しながら、ゆっくりゆっくり心の傷を癒していく。 苦しい過去と辛い事情を胸に抱えた三人の、再生の物語。

後宮の下賜姫様

四宮 あか
ライト文芸
薬屋では、国試という国を挙げての祭りにちっともうまみがない。 商魂たくましい母方の血を強く譲り受けたリンメイは、得意の饅頭を使い金を稼ぐことを思いついた。 試験に悩み胃が痛む若者には胃腸にいい薬を練りこんだものを。 クマがひどい若者には、よく眠れる薬草を練りこんだものを。 饅頭を売るだけではなく、薬屋としてもちゃんとやれることはやったから、流石に文句のつけようもないでしょう。 これで、薬屋の跡取りは私で決まったな!と思ったときに。 リンメイのもとに、後宮に上がるようにお達しがきたからさぁ大変。好きな男を市井において、一年どうか待っていてとリンメイは後宮に入った。 今日から毎日20時更新します。 予約ミスで29話とんでおりましたすみません。

So long! さようなら!  

設樂理沙
ライト文芸
思春期に入ってから、付き合う男子が途切れた事がなく異性に対して 気負いがなく、ニュートラルでいられる女性です。 そして、美人じゃないけれど仕草や性格がものすごくチャーミング おまけに聡明さも兼ね備えています。 なのに・・なのに・・夫は不倫し、しかも本気なんだとか、のたまって 遥の元からいなくなってしまいます。 理不尽な事をされながらも、人生を丁寧に誠実に歩む遥の事を 応援しつつ読んでいただければ、幸いです。 *・:+.。oOo+.:・*.oOo。+.:・。*・:+.。oOo+.:・*.o ❦イラストはイラストAC様内ILLUSTRATION STORE様フリー素材

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
父の失踪から七年、失踪宣告がなされて、田中さくらは母とともに母の旧姓になって母の実家のある堺の街にやってきた。母は戻ってきただが、さくらは「やってきた」だ。年に一度来るか来ないかのお祖父ちゃんの家は、今日から自分の家だ。 そして、まもなく中学一年生。 自慢のポニーテールを地味なヒッツメにし、口癖の「せやさかい」も封印して新しい生活が始まてしまった。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

ChatGPTに陰謀論を作ってもらうことにしました

月歌(ツキウタ)
ライト文芸
ChatGPTとコミュニケーションを取りながら、陰謀論を作ってもらいます。倫理観の高いChatGPTに陰謀論を語らせましょう。

翠碧色の虹

T.MONDEN
ライト文芸
虹は七色だと思っていた・・・不思議な少女に出逢うまでは・・・  ---あらすじ--- 虹の撮影に興味を持った主人公は、不思議な虹がよく現れる街の事を知り、撮影旅行に出かける。その街で、今までに見た事も無い不思議な「ふたつの虹」を持つ少女と出逢い、旅行の目的が大きく変わってゆく事に・・・。 虹は、どんな色に見えますか? 今までに無い特徴を持つ少女と、心揺られるほのぼの恋物語。 ---------- ↓「翠碧色の虹」登場人物紹介動画です☆ https://youtu.be/GYsJxMBn36w ↓小説本編紹介動画です♪ https://youtu.be/0WKqkkbhVN4 ↓原作者のWebサイト WebSite : ななついろひととき http://nanatsuiro.my.coocan.jp/ ご注意/ご留意事項 この物語は、フィクション(作り話)となります。 世界、舞台、登場する人物(キャラクター)、組織、団体、地域は全て架空となります。 実在するものとは一切関係ございません。 本小説に、実在する商標や物と同名の商標や物が登場した場合、そのオリジナルの商標は、各社、各権利者様の商標、または登録商標となります。作中内の商標や物とは、一切関係ございません。 本小説で登場する人物(キャラクター)の台詞に関しては、それぞれの人物(キャラクター)の個人的な心境を表しているに過ぎず、実在する事柄に対して宛てたものではございません。また、洒落や冗談へのご理解を頂けますよう、お願いいたします。 本小説の著作権は当方「T.MONDEN」にあります。事前に権利者の許可無く、複製、転載、放送、配信を行わないよう、お願い申し上げます。 本小説は、下記小説投稿サイト様にて重複投稿(マルチ投稿)を行っております。 pixiv 様 小説投稿サイト「カクヨム」 様 小説家になろう 様 星空文庫 様 エブリスタ 様 暁~小説投稿サイト~ 様 その他、サイト様(下記URLに記載) http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm 十分ご注意/ご留意願います。

処理中です...