雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(20)

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 私の言葉に青島くんはコクリと頷くと、射抜くように真っ直ぐ私の顔を見つめる。あまりにじっと見られ気恥ずかしくなった私は、思わず声が上ずった。

「え? まさかその女の子って、私?」
「あぁ。当時の俺は、まだガキだったから、お前がホテルの客かどうかなんて考えには至らなくて、ただ良い遊び相手が見つかったくらいに思ったんだと思う」
「私と青島くんが一緒に遊んだの?」
「うん。じいちゃんの仕事が終わるまでの、たぶん数時間だと思うんだけど、二人で庭園の中を走り回った。池を覗いたり、芝生で転がったり……」
「私と青島くんが?」

 庭園ガーデンの住人である私と青島くんの間に、そんな思い出があるはずがないと思いながらも、彼が話す情景がすんなりと頭の中に浮かびあがり、あたかも自分がそこにいたようにも感じる。

「俺、ガキだったからさ、その女の子の『つばさ』って名前しか覚えてなくて。顔も全然思い出せないし、どこの誰だかも分からないけど、ただその時の記憶だけが強く心に残ってたんだ」
「そ、それじゃあ……人違いなんじゃ……」

 青島くんの話を聞いているうちに、胸の鼓動が激しくなっていた。震える声で彼の話を遮る私に向かって、青島くんは首を振る。

「入学式の日、偶然校門の前で不安そうな顔で空を見上げているお前の姿を見かけたんだ。その時、それまで全然思い出せなかった女の子の名前が突然頭に閃いたんだ。そうだ。『白野つばさ』だって」
「ほ、ほんとに?」
「ああ。それから俺は、お前のことを探したんだ。同じクラスにはいなかったから、他のクラスを覗いて。で、葉山のクラスにいたお前の姿を見つけて、急いで葉山にお前の名前を確認したんだ。そしたら……」
「白野つばさ、だった?」
「そうだ」

 私の呆然とした言葉に、青島くんは力強く頷いた。その顔をぼんやりと見ながら、どういう事なのかもう完全に分からなくなってしまった私の頭の中では、小さな私と青島くんの駆け回る姿、そして、フリューゲルと手を繋いで庭園ガーデンを駆け回る姿が交錯し、何が本当の記憶なのか判断がつかない。

 頭の処理能力がオーバーヒートしてしまったのか、私は、頭の中でぐるぐると巡る記憶に思わず眉を顰める。

 小さな私。小さな青島くん。小さなフリューゲル。そして、両親とのいろいろな記憶。まだ一年ほどしか一緒に居ないはずの両親との沢山の記憶が、次から次へと映像となって、私の頭の中を駆け巡る。
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