雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(19)

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「青島くん。どうしたの? 痛いよ」

 私の肩に載っている青島くんの手に、私自身の手を重ねると、彼は、ビクリとした様に体を震わせてから、肩に食い込んでいた指の力を緩めた。

「悪い。何でもない」

 力なく笑って誤魔化した青島くんの顔を、私はじっと見つめる。しばらく見つめていると、観念したように、青島くんは頭を掻いた。

「さっき、待つって言ったばかりなのに、カッコ悪いな。俺」
「どういうこと? 思い出すって、私が何か忘れているっていうの?」

 私の問いには答えずに、青島くんは一人歩き出す。私は、彼の背を追う様にして、少し後ろを歩く。

 私たちの帰路が分かれる十字路で足を止めた青島くんは、隣に並んだ私をチラリと見ると、ようやく口を開いた。

「今日は送るよ」
「え? でも……」
「もう少し、白野と話したいんだ」

 確かに、このあやふやなままな状態は嫌だと、私も思った。コクリと小さく頷き、私たちは、私の家へと足を向けた。歩き始めると、青島くんがすぐに話し始めた。

「白野の中では、俺との最初の記憶は、あの怪我の時か?」

 青島くんの言葉に私は頷く。

「うん。……あ、もしかして、それより前に何かあった? 学校で肩がぶつかったとか?」
「いや。高校生になってからは、あの時が初めて。まぁ、俺は、入学式の日に白野の姿に気がついていたけど……」
「入学式の時? 私たち、それより前に会ってたっていうの?」

 入学式より前ということは、私が下界へ来てから1週間程しか経っていない。あの頃は、右も左も分からなくて、下界の生活に慣れるのに精一杯だった。興味本位で家の外を彷徨いてはいたけれど、その時にでも青島くんに出会っていたのだろうか。

 私があれこれと考えを巡らせていると、青島くんの口から、答えが漏れた。

「俺たち、子どもの頃に会ってるんだ」
「えっ? 子どもの頃?」
「4、5才の頃だと思う。その辺は、俺も良く覚えていないんだけど。俺、じいちゃんに連れられて何処かのホテルに行ったんだ。たぶん、園芸の仕事について行ったんだと思う」
大樹ひろしげさんの?」
「うん。めちゃくちゃ広い庭みたいなところでさ、池とかもあって、子どもの遊び場にもってこいって感じだった。で、そこを走り回ってた俺は、一人でじっと空を見上げている女の子を見つけたんだ。今になって考えると、客としてホテルに泊まっていたのかな」
「……女の子?」
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