雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(18)

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 質問に質問で返され、私は目をパチパチとしばたたかせてから、首を捻った。

「う~ん。私たちが出会ってそろそろ1年くらいでしょ。その間で私が印象的だなと思っているのは、怪我をした時に助けてくれた時と、木本さんに絡まれた時、それから、あのコンビニの夜なんだけど……」
「ああ。俺もどれも全部覚えてる」

 私の言葉に青島くんが懐かしそうに相槌を打つ。

「そうだなぁ? 青島くんが私のことを気になり出したのは、秋のあのコンビニの日くらい?」
「なんでそう思うんだ?」
「ほら。男の子は女の子の涙に弱いって言うじゃない? あの時、私、確か泣いてたと思うし」

 閃いたとばかりに、人差し指を1本立て得意気にそう言った私を、青島くんは可笑しそうに笑う。

「あはは。なんだその理由。お前、いろいろ鈍いのに、そう言うことは知ってるんだな」

 豪快に笑われて、思わず顔が赤くなる。それを隠すように青島くんから顔を背けて、少し唇を尖らせた。

「何よ。鈍いって。もう! 聞くんじゃなかった」
「あはは。怒るな、怒るな。まぁ、涙にほだされたってのは、当たってるかもなぁ」

 何処か他人事のように、あっけらかんと答える青島くんは、のんびりと歩をすすめながら、遠くの方へ視線を投げていた。まるで、何かを思い出しているようなその横顔に、不意に誰かの面影が重なった。

「……っ」

 思わず息を呑んで、青島くんの顔を凝視していると、私の視線に気がついた彼が、怪訝そうに眉根を寄せた。

「どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」

 青島くんの問いかけに、私はまだ彼の顔を見つめたまま、首を振る。

「う、ううん。なんでも……なんか、私、青島くんの顔を知っているような気がして……」
「そりゃ、知ってるだろ。もう1年も友達やってるんだぞ」

 呆れたように言う彼の言葉を、私は首を振って制した。

「違うの。そうじゃなくて……以前何処かで……」

 私の言葉に、今度は青島くんが鋭く息を呑んだ。彼の大きな手が私の肩をガシリと掴む。グッと指に力を入れられ、少し痛い。

「あ、青島くん?」
「白野。お前、思い出したのか?」
「お、思い出すって、何を?」

 青島くんは、必死な様子で私の顔を覗き込んでくる。しかし、私は首を傾げるしかない。庭園ガーデンから植物のことを学ぶために、この下界へとやってきた私には、この世界での思い出など、ほんの1年分しかない。あとは、庭園ガーデンにいた時の記憶しかないのだ。
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