雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(16)

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 どうやら人の気持ちを読むことに不慣れな私の見立てが当たっていたようだが、それにしては、モジモジとしている青島くんの態度は、私が指摘する前とは違うような気がする。

 彼の状況が分からず、私が戸惑っていると、意を決したかのように青島くんは口元を覆っていた手をパッと下げ、クイっとこちらへ顔を向けた。

「俺は、白野と話ができて、一緒に帰れて楽しいと思ってる」
「う、うん」

 青島くんの勢いに気圧されながら、なんとか相槌を返す。そんな私の目を青島くんはじっと見つめてきた。

 青島くんの不思議な瞳に見つめられ、私の心臓はドキドキと音を立てて、その速度を速めていく。そんな私の心臓のことなど青島くんには分からないのだろう。彼は、また一歩、私に近づいた。

 近づいたからだろうか。先ほどよりも、少し声のトーンを抑えて、彼は静かに話し出す。

「俺は、いつだって白野と話がしたい。出来ることなら、一緒に帰りたい。白野との時間をもっと増やしたいと思ってる。だから、こうやって一緒に帰れて嬉しいし、楽しい」
「あの……」
「本当は、まだ言うつもりなんてなかった。白野は、あの日、あのコンビニで偶然話をした日から、何か思い悩んでいるみたいだったから、俺が自分の気持ちをぶつけてしまったら、余計に白野を悩ませてしまうかもしれないと思ってた」
「あの時は、話を聞いてくれてありがとう」

 私がペコリと頭を下げると、青島くんはフワリと笑顔を見せてくれた。その顔は、すぐに引き締まる。なんだかキリリとした表情は少し大人びて見えた。

「でも、今日の白野の顔はなんだか吹っ切れたような清々しい顔をしていて……、いつもの俺と違うとか言ってくるし」
「あの、それは、ごめん」
「いや、そうじゃなくて、いつもと違う気がするって、それは、普段も俺の事を見てくれているってことだろ?」
「えっと……それは……でも、なんだかいつもと違う気がして。緑ちゃんからも、青島くんの事をもっとよく見ろって言われたばかりだったし」

 真っ直ぐな青島くんの視線に、思わず私の方がモジモジとしてしまう。

「葉山か。やっぱりあいつにはバレてたか」
「バレる?」
「俺が白野を好きってこと」
「えっ?」
「これまでは、白野の負担を増やしたくないと思っていたけど、なんか今日の白野を見ていたら、俺、自分の気持ちを伝えたくなった。白野、俺とのこと考えてくれないか?」
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