雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(15)

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 私の隣に並び、心配顔を見せる青島くんの視線に思わず顔が赤くなる。面倒くさがらずに、きちんと制服に着替えておけば良かったと後悔したが、今更だ。それでも少しは綺麗にしておこうと、ジャージの裾をパッパッと払いながら、青島くんの勘違いを正す。

「あ~、違うの。大樹ひろしげさんは全然悪くないから。今日は、ちょっと作業始めるのが遅くて。着替えて帰るのが面倒でついこのまま……」
「そっか。まぁ、白野が大変じゃないなら、良かった」

 青島くんはそう言って足を帰路に向ける。私も、彼の隣を歩く。こうして青島くんと並んで帰るのはあの日以来だ。

 こっそりと青島くんの顔を見る。何か良いことがあったのか、口元が少し緩んでいるような気がした。なんだかウキウキとしたその様子が気になって、ついチラチラと見ていたら、不意に青島くんがこちらを向いた。相変わらず、青のような緑のような不思議な色の瞳と視線がぶつかった。

「なんだよ? さっきから? 俺の顔に何か着いてるか?」

 慌てて首を振る。

「ごめん。そうじゃない」
「じゃ、なんだよ?」
「う~ん。よく分からないんだけど、青島くんの口元がいつもより緩い気がして。なんだか、ウキウキしてるみたいだし……ああ、もしかして、何か楽しいことでもあった?」

 いつもの彼から受ける印象の違いを口に出して言ってみると、先ほど緑と話をした時の自分の心情に近い気がして、そう聞いてみた。

 私のその言葉に、青島くんは素早く口元を隠し、軽く俯いてしまう。指摘してはいけないことだったのだろうか。

「あの。ごめん。なんか楽しそうに見えたから。余計なことだったよね」

 彼のどこかソワソワとした態度に、思わず立ち止まって頭を下げる。余計なことを言ってしまったようだ。私にはまだ、人の気持ちを感じ取るなんてことは出来ないみたい。いつも私の気持ちがわかる緑ちゃんはすごいな。

 慌てて謝罪をしながら、友人に対してそんな尊敬の念を抱いていると、足元の影が一歩私へと近づいた。

 顔を上げると、相変わらず青島くんは手で口元を隠し、困ったように眉尻を下げていた。

「いや、あの、別に怒ってないから、謝らないで」
「でも……」

 なんといえば良いのか分からず言葉に詰まっていると、彼はクシャリと頭を掻いた。そして、そっぽを向いて口を開く。

「俺、今、楽しいよ。白野が言った通り、楽しいと思ってるよ」
「えっと……」
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