雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(14)

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 結局、その後もフリューゲルと女の子は話し込んでいて、作業はほとんど私一人でやった。作業をしながら、時折二人の会話に混じる。手を動かしながら、口も動かしていたら、いつもよりも作業の時間はあっという間に過ぎた。

 女の子とはまた会う約束をして、部活を終えた私は、帰り支度をする。いつもは、きちんと制服に着替え直して帰るのだが、今日は、作業開始の時間が遅かったうえに、話しながら作業をしていたので、思ったよりも部活の終わり時間が遅くなってしまった。

 もうすぐ春とはいえ、まだ2月。帰る頃にはすっかり陽が落ち、空は私の帰宅を急かしていた。

「アーラ、着替えないのかい?」
「う~ん。今日はちょっと遅くなっちゃったから、このまま帰ろうかな」

 ジャージに付いた土を払い、埃まみれの体をほんの気持ちだけ綺麗にすると、荷物を手に校門へと歩き出す。

 そんな私の横を、さも当たり前な顔でフリューゲルは並び歩く。

「アーラは、少し会わなかった間に、随分とズボラになったんだね」

 すまし顔でそんなことを言ってくるフリューゲルから、プイと顔を逸らす。

「今日だけよ。いつもはきちんと着替えてから帰っているわ。どうせ、庭園ガーデンに戻っている間も、私のこと見ていたんでしょ。それなのにそんなことを言うなんて、少し会わない間に、フリューゲルは、随分と意地悪になったものね」

 しばらくの沈黙の後、どちらともなくプッと吹き出すと、私たちはケラケラと笑い合った。

 どんなに憎まれ口をたたこうとも、フリューゲルが隣にいると安心できる。心にぽっかりと開いていた穴が、ピッタリと塞がった気がする。やっぱり、彼は私の双子の片割れなのだと、何故だか確信めいた思いが胸に込み上げてきた。

「フリューゲル、やっぱり……」

 胸に浮かんだ思いを口にしたその時、私を呼び止める声が、私の言葉を遮った。

「おーい。白野」

 校門横で、青島くんが大きく手を振っている。周りには、部活の仲間らしき姿が数人あった。青島くんは、ワイワイと囃し立てる彼らを煩わしそうに適当にあしらい、先に帰るように促す仕草を見せていた。仲間がバラバラと帰っていき、私が校門に差し掛かった時には、青島くん一人だった。

「白野、珍しいな。今帰りか?」
「うん。ちょっと今日は遅くなっちゃって」
「着替える時間もないなんて、ちょっと部活し過ぎじゃないか? 俺から、じいちゃんに抗議しようか?」
「え?」
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