雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
88 / 124
冬の章

冬の章(14)

しおりを挟む
 結局、その後もフリューゲルと女の子は話し込んでいて、作業はほとんど私一人でやった。作業をしながら、時折二人の会話に混じる。手を動かしながら、口も動かしていたら、いつもよりも作業の時間はあっという間に過ぎた。

 女の子とはまた会う約束をして、部活を終えた私は、帰り支度をする。いつもは、きちんと制服に着替え直して帰るのだが、今日は、作業開始の時間が遅かったうえに、話しながら作業をしていたので、思ったよりも部活の終わり時間が遅くなってしまった。

 もうすぐ春とはいえ、まだ2月。帰る頃にはすっかり陽が落ち、空は私の帰宅を急かしていた。

「アーラ、着替えないのかい?」
「う~ん。今日はちょっと遅くなっちゃったから、このまま帰ろうかな」

 ジャージに付いた土を払い、埃まみれの体をほんの気持ちだけ綺麗にすると、荷物を手に校門へと歩き出す。

 そんな私の横を、さも当たり前な顔でフリューゲルは並び歩く。

「アーラは、少し会わなかった間に、随分とズボラになったんだね」

 すまし顔でそんなことを言ってくるフリューゲルから、プイと顔を逸らす。

「今日だけよ。いつもはきちんと着替えてから帰っているわ。どうせ、庭園ガーデンに戻っている間も、私のこと見ていたんでしょ。それなのにそんなことを言うなんて、少し会わない間に、フリューゲルは、随分と意地悪になったものね」

 しばらくの沈黙の後、どちらともなくプッと吹き出すと、私たちはケラケラと笑い合った。

 どんなに憎まれ口をたたこうとも、フリューゲルが隣にいると安心できる。心にぽっかりと開いていた穴が、ピッタリと塞がった気がする。やっぱり、彼は私の双子の片割れなのだと、何故だか確信めいた思いが胸に込み上げてきた。

「フリューゲル、やっぱり……」

 胸に浮かんだ思いを口にしたその時、私を呼び止める声が、私の言葉を遮った。

「おーい。白野」

 校門横で、青島くんが大きく手を振っている。周りには、部活の仲間らしき姿が数人あった。青島くんは、ワイワイと囃し立てる彼らを煩わしそうに適当にあしらい、先に帰るように促す仕草を見せていた。仲間がバラバラと帰っていき、私が校門に差し掛かった時には、青島くん一人だった。

「白野、珍しいな。今帰りか?」
「うん。ちょっと今日は遅くなっちゃって」
「着替える時間もないなんて、ちょっと部活し過ぎじゃないか? 俺から、じいちゃんに抗議しようか?」
「え?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

瑞稀の季節

compo
ライト文芸
瑞稀は歩く 1人歩く 後ろから女子高生が車でついてくるけど

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

紫陽花

二色燕𠀋
ライト文芸
あじさい 後編。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

時のコカリナ

遊馬友仁
ライト文芸
高校二年生の坂井夏生は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
父の失踪から七年、失踪宣告がなされて、田中さくらは母とともに母の旧姓になって母の実家のある堺の街にやってきた。母は戻ってきただが、さくらは「やってきた」だ。年に一度来るか来ないかのお祖父ちゃんの家は、今日から自分の家だ。 そして、まもなく中学一年生。 自慢のポニーテールを地味なヒッツメにし、口癖の「せやさかい」も封印して新しい生活が始まてしまった。

愛されない皇子妃、あっさり離宮に引きこもる ~皇都が絶望的だけど、今さら泣きついてきても知りません~

ネコ
恋愛
帝国の第二皇子アシュレイに嫁いだ侯爵令嬢クリスティナ。だがアシュレイは他国の姫と密会を繰り返し、クリスティナを悪女と糾弾して冷遇する。ある日、「彼女を皇妃にするため離縁してくれ」と言われたクリスティナは、あっさりと離宮へ引きこもる道を選ぶ。ところが皇都では不可解な問題が多発し、次第に名ばかり呼ばれるのはクリスティナ。彼女を手放したアシュレイや周囲は、ようやくその存在の大きさに気づくが、今さら彼女は戻ってくれそうもなく……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...