雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(13)

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 そんな私たちのやり取りに、女の子がクスクスと笑いだす。その笑い声は、次第に私とフリューゲルにも伝染し、いつしか3人でクスクスと笑い合う。

「あ~。可笑しい。こんなに笑ったの、久しぶり」

 女の子は満面の笑みを浮かべる。まだ幼いその笑顔は、本当に楽しそうだ。そうか。ココロノカケラだろう彼女は、長い間、他人との交流がなかったのだろう。どれだけの間、一人の時間を過ごしたのだろうか。

 そんな事を考えて、ふと先ほどの男の子のことを思い出した。

「ねぇ。そう言えばあの男の子は、仲良しじゃないの?」

 私の問いに、女の子は、小さく肩をすくめてみせる。

「知らない。何故だかあの子には見えるみたいで、最近、話しかけてくるの。これまでは誰も……」

 そこで言葉を濁した女の子の顔には、先ほどの笑顔を隠してしまうほどの影が落ちていた。私は慌てて言葉を探す。

「そ、そっかぁ。でも、不思議ねぇ。私たち以外にもあなたのことが分かるなんて。どうしてかしら? フリューゲル、何故だか分かる?」

 フリューゲルは、少し考える素振りを見せながら、首を傾げた。

「僕も詳しくは分からないけれど、もしかしたら、きみの思いに共鳴したのかもしれないね」
「共鳴? どう言うこと?」

 フリューゲルの考えをもう少し詳しく聞きたくて問い返す。女の子も不思議そうな顔をしてフリューゲルの言葉を待っていた。

「人は、時々他人の思いを受け止める力を持ってる人がいるんだよ。きっと、その子はきみの強い思いを受け止めたのかな。うまく言えないけど」
「ふ~ん」

 女の子は不思議そうに頷いた。他人の思いを受け止める人か。そんな人に出会えたのなら、この子は、きっと昇華出来るだろう。

「なかなか僕たちのような存在と関わりを持つことが出来る人はいないからね。きみが嫌じゃなければ、交流を深めたらいいと思うよ」

 フリューゲルの言葉を真剣に聞いていた女の子は、コクリと小さく頷く。

「もしかしたら、新しい友達が出来ちゃうかもね」

 少し、固くなった空気を緩めるために、私はわざと弾んだ声を出す。

「ともだち……」

 女の子は、小さくそう呟いた後、嬉しそうにはにかんだ。その小さな笑顔は期待に満ちていて、とても可愛らしかった。

 女の子の笑顔に私も笑い返す。

「さて、それじゃあ、あなたの願いを叶えるためにも、ここの花壇のお手入れを頑張りましょ!」

 私は、声を張り上げた。
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