雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(8)

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 フリューゲルのことが見えているようだ。やっぱりこの子は、普通の人間じゃないみたい。

「あ~。えっと、もしかしてだけど、見えてる?」

 フリューゲルの事を指差し、曖昧に聞いてみれば、女の子がコクリと頷く。それを確認したフリューゲルは、嬉しそうに頬を緩ませて、小さく片手を上げた。

「やぁ。こんにちは。この世界で僕のことが見える人に出会ったのは初めてだよ。ああ、正確には人じゃないのか」

 女の子の表情がピクリと動いたことを見て、フリューゲルが、すかさず言葉を繋げた。

「そんなに警戒しないで。実は僕も人じゃないんだ」

 女の子が怪訝そうに私の方を見るので、私は静かに頷いた。

「私たちは、あそこから来たの」

 私が人差し指を空に向けて1本立てると、それにつられるようにして、女の子が空を見上げた。それからしばらくの間、私たちと空を交互に見比べていたが、やがて、小さく口を開いた。

「もしかして、あなたたちは、天使なの?」

 女の子のその問いに、私とフリューゲルは顔を見合わせる。言ってはみたものの、こんなにもすんなりと私たちの存在が受け入れられるとは、正直思っていなかった。この子は、とても素直な子なのだろう。

「そう。天使……って言いたいところだけど、実はちょっと違うの。私たちは、まぁ、えっと、天使の見習いみたいなものかな」

 下界では空の上に住まう者、イコール天使と認識している人たちがほとんどなので、ここで「私たちはNoelノエルと呼ばれている存在だ」と主張して、私たちと天使様の違いを説明したところで、この子が理解できるかどうかは分からない。

 しかし、天使様を語ろうなど、恐れ多いことなので、下界の人に分かりやすく、天使の見習いということにする。

 チラリとフリューゲルをみれば、小さくコクリと頷いてくれた。どうやら、彼も私の考えに賛成のようだ。

「僕たちは、きみが昇華するのを手伝いたいんだ」
「昇華?」

 女の子の願いを叶え、本来の魂の元へ戻る手伝いがしたいと話しているうちに、女の子がとても可愛い笑顔を見せてくれるようになった。ひと通り話し終える頃には、すっかり私たちに心を許してくれていた。

「私は、お姉ちゃんと一緒にもう一度、ここのお花が見たい。それが叶えば、もうそれ以上の事は、望みません。天使様」
「分かった。まずは、ここに綺麗な花を咲かせる事が最優先だね」

 女の子の望みを再確認した私とフリューゲルは、しっかりと頷いた。
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