雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
80 / 124
冬の章

冬の章(6)

しおりを挟む
 そんな私を、フリューゲルは可笑そうに見ている。

 あの時突然私の前から姿を消したフリューゲル。どんなに呼んでも私のそばに来てくれなかったのに、今、目の前にしれっと立っている。

 その姿が以前と全く変わらないような気がして、だんだんと腹が立ってきた。

「あなたね。何なの。いきなり現れて。私がどれだけ心配したと思ってるのよ」

 私の剣幕にも怯むこともなく二ヘラと笑ったフリューゲルの笑顔に、さらにイラつきが増す。

「何で笑ってるのよ?」

 睨みを効かせて、ふにゃりとした笑顔を弾き返すが、そんなことすら気にする様子がない。

「あはは。アーラ、上手に怒るようになったね」
「もう、本当に何なのよ!」

 握り拳を一振りして、ダンと足を踏み鳴らす。

「あれ? ムッキーじゃなくていいの?」

 相変わらずのフリューゲル。のんびりしているのは彼らしいけど、今はまるで真実をはぐらかされているようで、なんだか余計にイライラとする。

「揶揄うのはやめて。私は本当に心配したのよ。あんな別れ方をして……」

 イラつきが頂点に達した私の目からは、ポツリと涙が落ちた。一粒落ちてしまうと、その後は、次から次へと涙の粒が頬を伝っていく。

 ようやくフリューゲルの声から戯けた色がなくなった。

「ごめん。あの時は、僕も混乱してしまって……」
「どこに行っていたのよ?」

 鼻をグスッと鳴らして、私は、フリューゲルにジト目を向ける。

「あの後、僕は庭園ガーデンに戻ったんだ。しばらくは一人でじっくりと考えて、その後、司祭様にお考えを聞いてみたんだ」
「ふ~ん。それで? 司祭様はなんて?」

 私は話の先を促したけれど、フリューゲルは困ったように眉根を寄せた。

「ああ。うん。その話の続きをこのまましても良いんだけど、アーラは作業の途中だったんじゃないの? それ、大丈夫?」

 フリューゲルが私の足下を指すので、つられて視線を下へ向けると、思わず声が漏れた。

「ああ。肥料!」

 落とした拍子に袋が破れてしまったのだろう。茶色の土に似た肥料が床に溢れ出ていた。

「やばい!」

 庫内の隅へ行き、箒とちりとりを手にすると、肥料を掻き集めるために、床を掃く。埃と砂の混じった肥料を掃き集め、ちりとりに収めた。

 まぁ、これでも花壇に撒くには問題ない。仕方ない。これを使おう。肥料だってタダじゃない。無駄には出来ないのだ。

「あのさ。話の続きを聞きたいけど、今は、こっちをやらなくちゃ。あ、そうだ。相談したいことがあったの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

日に向かう花

環 花奈江
ライト文芸
都立高校に通う篤樹が化学部で出会ったのはちょっと風変わりな先輩でした。

愛されない皇子妃、あっさり離宮に引きこもる ~皇都が絶望的だけど、今さら泣きついてきても知りません~

ネコ
恋愛
帝国の第二皇子アシュレイに嫁いだ侯爵令嬢クリスティナ。だがアシュレイは他国の姫と密会を繰り返し、クリスティナを悪女と糾弾して冷遇する。ある日、「彼女を皇妃にするため離縁してくれ」と言われたクリスティナは、あっさりと離宮へ引きこもる道を選ぶ。ところが皇都では不可解な問題が多発し、次第に名ばかり呼ばれるのはクリスティナ。彼女を手放したアシュレイや周囲は、ようやくその存在の大きさに気づくが、今さら彼女は戻ってくれそうもなく……。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

oldies ~僕たちの時間[とき]

ライト文芸
「オマエ、すっげえつまんなそーにピアノ弾くのな」  …それをヤツに言われた時から。  僕の中で、何かが変わっていったのかもしれない――。    竹内俊彦、中学生。 “ヤツら”と出逢い、本当の“音楽”というものを知る。   [当作品は、少し懐かしい時代(1980~90年代頃?)を背景とした青春モノとなっております。現代にはそぐわない表現などもあると思われますので、苦手な方はご注意ください。]

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...