雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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冬の章

冬の章(4)

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 さっさと校舎へ戻って行く男の子の背中を見送ったあと、私は、女の子へと視線を戻した。

「さてと……」

 相変わらず私の存在など意に介さないという感じで、真剣に花壇を見つめる女の子に直球の質問をぶつけてみる。

「あなた、下界の人じゃないよね?」

 私の突拍子もない質問に、初めて女の子がこちらを向いた。しかし、その瞳に警戒の色を宿したまま、女の子は口を開こうとはしない。

 それはそうか。私の聞き方が悪かったかな。まぁ、普通は人にこんな聞き方しないもんね。

「安心して。私も下界の人じゃないから」

 私の言葉に女の子は目を大きく見開いた。

 それから女の子は、ポツリポツリと自身のことを話してくれた。

 本当は随分前にこの世を去った事。気がついたらここにいた事。今までは、誰も自分の存在に気がついてくれなかった事。最近になって、先ほどの男の子だけが、自分の存在に気がついた事。それから、この花壇に咲く花に思い入れがある事。

「そっか。あなたは、ココロノカケラなんだね」

 女の子の話を聞き終えて、私がそうポツリとつぶやくと、女の子は首を傾げる。どうやら彼女自身も、自分がどういう存在なのかを知らないようだった。

 ココロノカケラとは、幽体に似た存在だ。強く願った心の一部がその場に留まり、願いを叶えようとする。留まった願いや思いが叶えば、昇華すると言われている。

 実は、私もココロノカケラに会ったのは初めてなんだけど。庭園ガーデンにいた頃に、フリューゲルと一緒に、司祭様からその存在については聞いたことがあったのだ。

 私の知っている事を話して聞かせると、女の子は、次第に頬を緩ませた。自分がどんな存在か分かってホッとしているように見える。

 彼女の願いは、多分この花壇の花に由来するのだろう。何とか昇華させてあげられるといいのだけれど。フリューゲルがそばにいてくれたなら、ココロノカケラについて、もう少し詳しく分かったかもしれないのに。

 私は、自分の非力さに小さくため息をつく。

 そのとき、ふと思いついた。

「ねぇ! 私がこの花壇のお手入れしてもいい?」
「え?」

 私は園芸部員なのだ。私に出来ることと言ったら、やはり、ガーデニングだろう。

「ここは、ずっとお手入れがされてなかったのに花が咲く花壇だって聞いたよ。それってきっとあなたの力だと思うの。そんな花壇をちゃんとお手入れしたら、きっと、あなたの待ってる花がたくさん咲くんじゃないかしら」
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