雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
73 / 124
秋の章

秋の章(27)

しおりを挟む
 涙で濡れた瞳を青島くんに向けると、彼は、握った手により一層力を込めた。

「今は、双子の片割れを想ってたくさん哀しめばいいよ。白野が泣き止むまで俺がそばにいる。でも、泣き止んだ後は、もう哀しむのはやめよう。きっと双子の片割れは、そんなこと望んでいないと思う」

 涙をポトリと落としながら、私は青島くんの言葉に聞き入った。

「白野が今日まで片割れの存在を忘れていたのだとしても、今、白野はこうしてその子のことを思ってる。哀しんでいる。きっとそれで充分じゃないかな。俺が、その片割れだったら、白野がずっと哀しんで塞ぎ込んでいるより、自分の分まで、元気に笑っていてほいしと思う」
「……私だけ、笑っていてもいいの?」

 私の涙混じりの声に、青島くんは力強く頷いた。

「ああ。いい! むしろ、笑っていないとダメだ。もしも、双子の片割れがそんな白野を見たらどう思うか分かるか? きっと、泣いている白野が心配で、片割れまで哀しい思いをすると思うぞ。白野は、仲の良かった片割れにそんな思いをさせたいのか?」

 青島くんはフリューゲルのことを知らない。それなのに、まるで、フリューゲルが私のそばにいつもいる事を知っているかのように、私に語りかけてくる。

 涙で滲んだ視線の先に、唇を引き結び、眉間を顰めて必死に何かに耐えているようなフリューゲルの姿が映ったような気がして、ハッと息を呑んだ。

 だけど、よくよく目を凝らせば、それは店のガラスに映った私自身だった。でも、それだけで私は、フリューゲルが哀しんでいる姿をありありと想像することができた。

 フリューゲルには、こんな顔をさせたくない。

 Noelノエルであるフリューゲルが顔を顰めたり、泣いたりなんてするはずがないのに、私は、絶対に嫌だと思ってしまった。

 フリューゲルが私のせいで哀しむのは絶対に嫌だ。

 私は、頭をフルフルと振ってから、手の甲で涙を拭う。

「嫌だ。哀しい思いはしてほしくない」
「だろ。きっと片割れも同じ気持ちだ。だって、仲のいい双子だったんだろ?」

 青島くんにコクリと頷くと、私に優しく語りかけてくれていた彼も、コクリと頷き返してくれた。

「哀しむのは、これでやめよう。片割れを覚えていなくても、片割れが隣にいなくても、これから、白野は二人分元気に笑っていろよ」

 ニカリと笑いかけてくれる彼に、私はもう一度コクリと頷いてから、青島くんを真似て、ニカリと笑ってみた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嫌婚ー嫌いな人と結婚したバカ女ー

みほこ
ライト文芸
いつ別れを切り出そうか、悩みに悩んで10年以上も経過 好きでもない男と結婚をしてしまった その男は次第に本性を現す・・・

立花家へようこそ!

由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・―――― これは、内気な私が成長していく物語。 親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。

心の棲処

葵生りん
ライト文芸
心臓病を抱えている少女と、精神科に入院中の妹を見舞う少年。 それぞれが抱え込んで押しつぶされそうになっている不安が交錯する、冬の夕刻。

青空サークル

箕田 はる
ライト文芸
学校生活も家庭でも上手くいかない星は、幽霊くんというあだ名通りに本物になろうと思い立ち、屋上へと向かう。 だけどそこには、先客の姿が。 今は絶滅危惧種となった一昔前のギャルなーこと、見るからに昔気質な眼鏡君との出会いによって、青空サークルなるものが結成されることに。 幽霊である二人との楽しい一時を送る一方で、自分の卒業も間近に迫りつつあって――

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

青い瞳のステラ

藤和
ライト文芸
パワーストーンのお店で働きながら、高校に通う女子高生。 ある日突然目の前に喋るカエルが現れて、ごはんに石をくれなんてどうしたらいいの! カエルのごはんを確保しながら過ごす毎日はそれでも楽しい。

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

処理中です...