雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(26)

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「あのね。私、弟がいたかもしれないの」
「いたかもしれない? それって、どういうことだ?」

 私が曖昧な言い方をしたばかりに、青島くんは、よく分からないというように眉を顰めた。

「えっと……私も今まで知らなかったんだけど、今日お母さんに聞いたの。実は、私は生まれる前に双子だったんだって」
「双子? え? でも……」
「うん。私は一人っ子。双子のもう一人はね、生まれることが出来なかったんだって」
「そう、なのか」
「うん。お母さんの話では、私たちとっても仲が良かったんだって。それなのに、私、全然そんなこと覚えていなくて……」

 私は言葉を詰まらせる。部屋に残してきたフリューゲルの事を思うと、また鼻の奥がツンとした。本当にフリューゲルが私の弟なのだろうか。また混乱の渦に囚われそうになる私の隣で、フライドポテトを摘まんでいた青島くんは、こともなげにサラリと言葉を発した。

「ってかさ、そんなの、みんなそうじゃね?」
「え?」
「生まれる前の事なんて、覚えてる奴、そうそういないと思うぞ。まぁ、稀にいるって話聞くけど、覚えているやつの方が絶対特殊だから」

 青島くんの言葉に、鼻の奥の痛みも忘れて、目を見張る。そんな私を不思議そうに見つめながら、青島くんは、自身の飲み物をズズッと啜った。

「何? 白野はさ、双子の片割れの事を覚えていなかったことを気にして泣いてたのか?」
「え? うん。まぁ、そう。覚えていなかったこともそうだし、あの子だけどうしてって思いもあったし……一緒に居たかったなとか……なんか、いろいろ……」

 自分自身、何故部屋を飛び出してしまったのか、何故青島くんの前で涙を流してしまったのかが分からないでいたので、言葉がどうしても曖昧になってしまう。

 そんな拙い私の言葉が途切れるまで辛抱強く聞いていた彼は、尻すぼみになった私の言葉を丁寧に拾ってくれた。

「白野はさ、その子の事を想って、哀しくて泣いたんだな」
「哀……しい?」
「うん。一緒に居られなかった寂しさとか、自分だけこの世に生まれてきてしまった辛さとか、申し訳なさ? みたいなものが、白野の中にあったんじゃないのか」
「そう……かも。あの子だけ生まれてこれなかったってことが、私どうしても……」

 それから先は、言葉が出てこなかった。代わりに、止まったと思っていた涙が再び溢れ出した。後から後から溢れ出る涙を止める術がない私の手を、青島くんがそっと握ってくれる。
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