雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(25)

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 ポカンと口を開けて青島くんの推論を聞いていた私に、彼は曖昧に笑って見せる。

「もしパラレルワールドがあって、向こうが現実だったとしても、俺には向こうに行く術はないし、ここの世界が俺にとっての全てだから、俺にはここが現実なんだ」

 青島くんの話を聞いていたら、本当に途方もないことで、私は悩んでいたのだと気が付いた。私に庭園ガーデンでの記憶があるから、混乱したけれど、確かに、ここが現実かどうかなんて私には分かりようもない。

 私に分かることは、雲の上からいつも下界を見ていたことと、フリューゲルがいつもそばに居てくれたこと。それから、今は白野つばさとして、下界で勉強中であること。それが、今の私の全てだ。

 そうだ。私は大樹と司祭様の御意思でこの世界で学ぶことになったのだ。ならば、学びが終わって庭園ガーデンに戻った時に司祭様に伺えば、全ての混乱は解けるはずだ。私とフリューゲルの関係も。私たちのあの記憶も。

 分からないことをウダウダと悩んだところで、答えなど出るはずもなかったことに私は苦笑いを浮かべた。私が悩むべきことは、どちらの世界が現実かとか、私とフリューゲルが兄弟だったとか、そんな事じゃなくて、どうやって学びを終わらせて、庭園ガーデンに戻るのかということなのに。

「青島くん。あの。ありがとう。話を聞いてくれて。青島くんがいうように、どっちが現実かなんて分かりようがないもんね。分かっていることは、今、私たちがここにいるってことで、つまりは、それが全てなんだよね」
「おう。俺はそう思う」

 ニカリと笑った青島くんに、私も納得の意を示す。しかし、頷いた私の顔を青島くんは不思議そうに覗き込んできた。

「なんか、納得してないような顔だな」
「え? そんなことないよ」

 私は、首を振ったけれど、青島くんは私の顔から視線を外さない。

「突然泣いてしまう程の白野の悩みは、本当に解決したのか?」
「えっと……あの……」

 この世界と雲の上の世界の繋がりについて、考えても仕方がないことは理解した。でも、それでも気になっていることがあるのも、また事実だった。

「さっき、確か現実の世界かどうかは、って言ってなかったか? つまり、他にも気になっていることがあるんだろ?」

 青島くんは、私の顔をじっと見つめたまま問いかけてきた。彼の深い青のような緑のような瞳に見つめられているうちに、私は、自然と口を開いていた。
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