雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
70 / 124
秋の章

秋の章(24)

しおりを挟む
「そういうことだよね。やっぱり。でも私は……」

 青島くんの言葉に頷きつつも、やっぱり納得ができない。

 今いるこの世界が、私にとっての現実なら、これまでのアーラとしての生活は一体何だったのか。庭園ガーデンでの暮らしが、今もしっかりと私の中に残っているのに。あれが現実じゃないなんて、どうして言えよう。

 納得が出来なくて、つい険しい表情になってしまった私には気が付かず、青島くんは何かを考えるように目を閉じて眉根を寄せた。

「いや、そうとも限らないか……両方とも現実ってことも……」
「え?」

 考えもつかなかったことだ。まさかそんなことがあるのだろうか。

「両方ともが現実なんてことがあるの?」

 体ごと青島くんににじり寄り、鼻息を荒くした私の肩を、優しく押し戻した青島くんは、流れるように私用のぬるくなり始めたミルクティーを手渡してくれる。

「白野。これでも飲んで落ち着いて」

 言われるがままに、ミルクティーを口に含む。ミルクティーの甘さが、ごちゃごちゃに絡まった頭の中をほぐしてくれるような気がして、さらにもう一口飲んだ。

 私が少し落ち着いたのを見計らうようにして、青島くんが口を開いた。

「白野はさ、パラレルワールドって聞いたことある?」
「パラレルワールド?」

 聞いたことのない言葉に首を傾げる。

「知らないか。パラレルワールドっていうのは、小説とかフィクションの中では、もう一つの現実世界だって言われているんだ」
「もう一つの現実世界? って、言うことは、やっぱり、どっちも現実ってこと?」
「そう。でも、それはあくまでフィクション、作り物の中で言われていることであって、実際には、パラレルワールドがあるのかないのかなんて、知りようがないんだ」

 いつもは端的に話をしてくれる青島くんの言葉が、今日はなんだかまだるっこしい。

「つまり、どういうこと?」
「つまり、どっちが現実かなんて、俺たちには分かりようがないってこと」
「そんな……」

 青島くんの答えに愕然としていると、青島くんは、仕方がないというように眉尻を下げた。

「だってそうだろ。現実だと思っているからこそ、ここは現実なわけで、もしかしたら、本当は仮の世界かもしれないし、もう一つの、いわゆるパラレルワールドなのかもしれない。でもそれはどんなに考えたって分かりようがないんだ。まぁ、仮想世界に関しては、ログアウトできるから、仮の世界だったって分かるけどな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

ネットで小説ですか?

のーまじん
ライト文芸
3章 ネット小説でお金儲けは無理だし、雄二郎は仕事始めたし書いてなかったが、 結局、名古屋の旅行は行けてない。 そんな 中、雄二郎が還暦を過ぎていたことが判明する。 記念も込めて小説に再び挑戦しようと考える。 今度は、人気の異世界もので。 しかし、書くとなると、そう簡単でもなく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【完結】浄化の花嫁は、お留守番を強いられる~過保護すぎる旦那に家に置いていかれるので、浄化ができません。こっそり、ついていきますか~

うり北 うりこ@ざまされ書籍化決定
ライト文芸
突然、異世界転移した。国を守る花嫁として、神様から選ばれたのだと私の旦那になる白樹さんは言う。 異世界転移なんて中二病!?と思ったのだけど、なんともファンタジーな世界で、私は浄化の力を持っていた。 それなのに、白樹さんは私を家から出したがらない。凶暴化した獣の討伐にも、討伐隊の再編成をするから待つようにと連れていってくれない。 なんなら、浄化の仕事もしなくていいという。 おい!! 呼んだんだから、仕事をさせろ!! 何もせずに優雅な生活なんか、社会人の私には馴染まないのよ。 というか、あなたのことを守らせなさいよ!!!! 超絶美形な過保護旦那と、どこにでもいるOL(27歳)だった浄化の花嫁の、和風ラブファンタジー。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

相馬さんは今日も竹刀を振る 

compo
ライト文芸
大学に進学したばかりの僕の所に、祖父から手紙が来た。 1人の少女の世話をして欲しい。 彼女を迎える為に、とある建物をあげる。   何がなんだかわからないまま、両親に連れられて行った先で、僕の静かな生活がどこかに行ってしまうのでした。

妹は欲しがりさん!

よもぎ
ライト文芸
なんでも欲しがる妹は誰からでもなんでも欲しがって、しまいにはとうとう姉の婚約者さえも欲しがって横取りしてしまいましたとさ。から始まる姉目線でのお話。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

処理中です...