雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(21)

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 なんで涙が出るんだろう。

 鼻を啜り、手の甲で涙を拭う。拭っても拭っても、止まる事なく零れ落ちる涙に途方に暮れていると、ポンと肩を叩かれた。

 瞳を上げると、トレーに大量のホットスナックを乗せた青島くんが立っていた。

「白野。夕飯食べた? まだだったら、コレ、一緒に食べよう」

 私の隣に座ると、青島くんは早速、簡易包装された包みからアメリカンドッグを取り出し、付属のケチャップとマスタードを勢いよくかけた。それを包みへと一旦戻してから、私の方へ押しやる。

「俺、コレ好きなんだよ。なんか、衣甘いのに、ケチャップとマスタードの酸味がアクセントになってて。甘過ぎず、酸っぱ過ぎずって言うの? まぁ、なんかうまく言えないけど、とにかく美味いんだよ。食ってみ」

 そう言いながら、青島くんは、もう一つのアメリカンドッグにもケチャップとマスタードを勢いよくかけると、待ちきれないというように、大きな口を開けてガブリと齧り付いた。

 青島くんの食べっぷりに、思わず目を見張る。目を細め、本当に美味しそうに食べる姿を見つめていたら、いつの間にか私の涙は止まっていた。

 しばらくモグモグと口を動かし、もう一口齧り付こうとして口を開きかけた青島くんは、一旦口を閉じると、口の端にケチャップを付けたまま、私に向き直る。

「ほら、白野も食べて。揚げたてにしてもらったから、温かいよ」

 大人っぽい気遣いと、口の端に付いた子供っぽさに思わず笑みがもれる。

 私は、鼻を啜りながら濡れたままになっていた頬を手のひらで拭うと、紙ナプキンを差し出した。

「ケチャップ付いてる」

 笑いを少し含んだ声でそう言うと、青島くんは、慌てたように紙ナプキンを受け取った。

「マジ!?」

 慌てて口の周りを拭いている彼に、軽く頭を下げる。

「ありがとう。いただきます」

 小さく一口齧ると、確かにほんのり甘い衣と、甘酸っぱいケチャップ、それからちょっと酸味のあるマスタードが鼻から抜け、美味しさが口の中に広がった。

 何より、揚げたてというのが、さらに美味しさをアップさせている気がする。まるで、青島くんの優しさを丸ごと食べているようで、私は夢中で齧り付いた。

 食べ終わると、先程渡されたミルクティーをコクリと飲む。

 ほうっと一息吐いた時には、冷え切っていた体と心が温かくなっていた。

 そんな私のことを、フライドポテトを摘まみながら見ていた青島くんが、口を開く。
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