雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(15)

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 ぼんやりとする私に、再度お母さんの声が降りかかる。

「ねぇ、つばさ。本当に大丈夫?」
「ああ。うん。ごめん。ちょっとびっくりしちゃって」

 曖昧な笑みを浮かべて答えると、お母さんは、ホッとしたように、少し肩を下げた。

「そうよね。びっくりしたわよね。久しぶりに片付けをしていたら、この写真が目に留まってね。お母さん、少し感傷的になっちゃったの。ごめんね」

 そう言ってお母さんは、また寂しそうな笑みを見せた。

 一人っ子設定のはずの我が家でどうしてこんな事になっているのかは、やっぱり分からないけれど、今はそれよりもお母さんの笑顔が気になった。無理して笑顔を見せるお母さん。

 その笑顔が泣いているようで、私まで涙が出そうになる。

「そんな日があってもいいと思うよ。ねぇ、もう少し聞かせてよ。その子のこと」

 もう少しお母さんの感傷に付き合おう。出来れば、お母さんの笑顔が、心からの笑顔に変わるまで。そう思いながら、話の先を促すように、ハーブティーに手を伸ばす。

 私のリクエストにお母さんは少し小首を傾げる。

「そうねぇ。あなたみたいに一緒の時間を過ごしたわけじゃないから、あの子のことでコレと言って話せる事はないけど……」
「そっか。そうだよね。う~ん。じゃあさ、性別は? 男の子だった? それとも女の子だった?」
「ああ。それは、男の子よ。あなたの後におなかから出てきたから、つばさの弟になるわ」
「弟かぁ。弟がいるってどんな感じなんだろう」
「どんな感じかしらね? でも、あなたたちは本当に仲が良かったのよ。病院であなたたちの様子を見ると、いつだって手を繋いでいるんですもの。いつもお医者さんに仲良しですねぇって言われていたわ」
「そうなんだ」

 お母さんの話を聞きながら、自分の掌を見る。何気なく閉じたり開いたりしていると、覚えのある感触が蘇る。まだ小さなNoelノエルだった頃、いつも繋いでいた小さなフリューゲルの手。なんだか、懐かしい。

「あの子は、きっとしっかりとした子だったと思うわ」
「そうなの? どうして?」
「だって、あなたはお母さんのおなかをたくさん蹴ったり、クルンと廻ってみたりしてたけど、あの子はいつだってあなたのそばで大人しくしていたんだもの」
「え~。それホント?」
「本当よ。しかも、あなたが元気すぎると、あの子があなたに手を伸ばすの。そしたら、あなたの動きがピタッと収まるのよ。それを見て、私とお医者さんは何度笑ったことか」
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