雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(14)

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 何かがおかしい。心臓を打つバクバクという音が、うるさいくらいに聞こえる。私が双子とは一体どういうことなのだ。

 状況が飲み込めずにいる私とは対照的に、お母さんは、寂しそうな影をその顔に落としながら、静かに言葉を紡ぐ。

「確かにこの家にはあなたしか子供はいないわ。でも、あなたは双子だったのよ」
「よく分からないよ。お母さん。私が双子だっていうなら、もう一人の子はどこにいるの?」
「さあ。どこにいるのかしらね。空の上に居てくれるといいのだけれど」

 そう言って、お母さんは天井を見上げた。その眼は、はるか遠くを見つめている。

「それって。その子は……」
「うん。生まれる前に死んじゃったわ」
「うそ……」

 驚きが小さく漏れる。あまりのことに私の口からは、それ以上の言葉が出てこなかった。

「あなたもね。一時危ない状態だったのよ。でも、なんとか持ち堪えてくれて……」

 お母さんの声はいつの間にか震えていた。

「お医者さんの話ではね。お母さんの産道は、あなたたちが通るには、少し狭かったみたいなの。それであなたたちを疲れさせちゃったみたいなの」

 震える声で、話を続けるお母さんの声を聞きながら、いつの間にか私の意識は、別のところにあった。

 ぷかぷかと暗い水の中を漂う。

 暗闇の中、必死で手を伸ばし誰かの手を探す。いつもならすぐそばにあるはずなのに。でもどんなに手を伸ばしても、触れることができない。声を上げて泣きそうになった。その時、暗い水の中に一筋の光が差してきた。

 光の向こうから、呼ばれた。早くおいでと。優しい声が、私のことを呼んでいる。私は声の元へ行きたい。でも一人ではいけない。私はもう一度手を伸ばす。

 必死で手を伸ばす私の耳にいつもそばで聞いていた声が聞こえた。大丈夫。心配しないで。僕はいつだって君のそばにいるよと。その声に押されるようにして、私の体は光の海流に乗る。いつもの声が遠退いていくような気がした。

 待ってと、力の限り叫ぼうとしたその時、私の周りがとても眩しくなった。眩しくて眩しくて、私は目をギュッと瞑ったまま叫んだ。神様、お願い。私たちを引き離さないでと。

「つばさ。ねぇ。つばさ。大丈夫?」

 お母さんの声で我に返る。

 今の景色は一体何だったのだろうか? 不思議な感覚にとらわれる。私は、今の場面に遭遇したことがあるような気がした。でも、下界へ来て数カ月。こんな出来事には遭遇していないはずなのだが。
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