雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
59 / 124
秋の章

秋の章(13)

しおりを挟む
「ねぇ。つばさ。あなたは、生まれる前の頃のことを覚えている?」
「え?」

 庭園ガーデンから下界へ来た私に生まれる前の記憶などあるはずがない。私の中の一番古い記憶は、小さなフリューゲルと庭園でいつも手を繋いでいたという記憶だ。だが、それはお母さんの望んでいる答えではない。

 私が答えに詰まっていると、お母さんは小さく微笑んだ。

「覚えているわけないわよね」
「え? ああ。うん。全然覚えてない。それがどうしたの?」

 話の内容がつかめなくて、少し焦る。ただでさえ、下界の生活や言い回しを含んだ言葉に不慣れなのだ。会話は、なるべくわかるように話してほしいと思いながら、お母さんの顔を見つめる。

 お母さんは、例の写真を机の上に置くと、それを私の方へ向けた。

「この写真の子たちは、あなたたちよ。つばさ」
「私たち?」
「ええ。そう。これは、お母さんがあなたたちを妊娠している時におなかの中を映したエコー写真なの」
「エコー写真……」

 じっと写真を見つめ、お母さんの言葉をそのまま反復する。しばらくぼんやりとその写真を見つめて、ようやく、話の内容を理解した。この写真は私の生まれる前の物だとお母さんは言っているのだ。

 だが、私はNoelノエル庭園ガーデンの住人であって、下界でのこの家族は、本当の家族ではない。両親たちは、大樹か司祭様のお力添えで私を娘と思っているのだ。だから、おそらくこの写真の事についての母の記憶も、調整されたものだろう。

 そう判断したのだが、写真に写る二人分の影が、何だか私の心をざわつかせる。だって、私がこの家族に溶け込むようにと両親の記憶を調整しているのであれば、なぜ、ここに2人分の影が映った写真が存在するのか。私は一人娘という設定のはずだ。このような写真が出てくるはずがないのだ。

「ねぇ。お母さん。私たちってどういうこと?」

 私は混乱する頭を抱えながら、思ったままの疑問を口にした。その疑問にお母さんは寂しそうに答える。

「あのね。今まであなたに伝えたことはなかったけれど、あなたは双子だったのよ」
「え? 双子?」
「そう。あなたたちは、エコーで見る度、向かい合って寝ていたり、手を繋いでいたり、お母さんのおなかの中で、とても仲良さそうにしていたのよ」
「ちょっと待って。どういうことお母さん。私が双子って。私は一人っ子でしょ。このうちには、私しか子供はいないじゃない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

So long! さようなら!  

設樂理沙
ライト文芸
思春期に入ってから、付き合う男子が途切れた事がなく異性に対して 気負いがなく、ニュートラルでいられる女性です。 そして、美人じゃないけれど仕草や性格がものすごくチャーミング おまけに聡明さも兼ね備えています。 なのに・・なのに・・夫は不倫し、しかも本気なんだとか、のたまって 遥の元からいなくなってしまいます。 理不尽な事をされながらも、人生を丁寧に誠実に歩む遥の事を 応援しつつ読んでいただければ、幸いです。 *・:+.。oOo+.:・*.oOo。+.:・。*・:+.。oOo+.:・*.o ❦イラストはイラストAC様内ILLUSTRATION STORE様フリー素材

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

セリフ&声劇台本

まぐろ首領
ライト文芸
自作のセリフ、声劇台本を集めました。 LIVE配信の際や、ボイス投稿の際にお使い下さい。 また、投稿する際に使われる方は、詳細などに 【台本(セリフ):詩乃冬姫】と記入していただけると嬉しいです。 よろしくお願いします。 また、コメントに一言下されば喜びます。 随時更新していきます。 リクエスト、改善してほしいことなどありましたらコメントよろしくお願いします。 また、コメントは返信できない場合がございますのでご了承ください。

フリー台本と短編小説置き場

きなこ
ライト文芸
自作のフリー台本を思いつきで綴って行こうと思います。 短編小説としても楽しんで頂けたらと思います。 ご使用の際は、作品のどこかに"リンク"か、"作者きなこ"と入れていただけると幸いです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

安楽椅子から立ち上がれ

Marty
ライト文芸
 女生徒≪小沢さん≫は、学校の不思議な変わり者。あらゆる行動が常識外れでエキセントリックなお方である。五月三十日。主人公、山田島辰吉(やまだじまたつよし)は不運なことに、学校の課外活動を彼女と二人きりで行うことになってしまった。噂に違わぬ摩訶不思議な行動に面食らう山田島であったが、次第に心が変化していく。  人に理解され、人を理解するとはどういうことなのか。思い込みや偏見は、心の深淵へ踏み込む足の障害となる。すべてを捨てなければ、湧き上がったこの謎は解けはしない。  始まりは≪一本の傘≫。人の心の糸を紡ぎ、そして安らかにほどいていく。  これは人が死なないミステリー。しかし、日常の中に潜む謎はときとして非常に残酷なのである。    その一歩を踏み出せ。山田島は背を預けていた『安楽椅子』から、いま立ち上がる。

処理中です...