雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(11)

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「俺も、白野と話せて楽しかった」

 青島くんは薄くはにかむと、すぐに心配そうに顔を曇らせる。

「白野。本当に送らなくて大丈夫か?」
「うん。平気。家、そんなに遠くないし」
「そっか。分かった。じゃ、もし何かあったらすぐに連絡しろよ。俺の連絡先知ってるよな?」

 そう言うと、青島くんはポケットからスマホを取り出した。

「うん。前に教えてもらったから知ってる。もう、心配しすぎだよ。大丈夫。でも、もし、何かあったら連絡するね」

 心配する彼を宥めつつ、私は、別れの挨拶がてら、彼に手を振る。青島くんもそれに応えるように軽く手をあげた。いつまでもこうしていたいが、そういうわけにもいかない。私は思い切って、彼に背を向けて歩き出した。

 しばらく歩くと、フリューゲルののんびりとした嘆きが隣から聞こえてきた。

「あ~あ。焼き芋美味しそうだったなぁ。アーラだけ、ズルいよ」

 そんなことを言うフリューゲルに、私は少し呆れる。

「フリューゲル。そんな事を言うなんて、あなたもいつの間にか下界の人ね。Noelノエルは、そんな風に誰かを羨んだりしないものよ」
「それは、庭園ガーデンでの話だよ。変化のないあの世界では、人を羨むようなことは滅多に起こらないんだから。でも、今は、僕だっていろいろ刺激のある下界にずっといるんだよ。少しくらい羨ましいと思うことだって出てくるさ」

 唇をちょっと突き出して、そんなことを言ってくるフリューゲルの姿は、まるで、学校の男子たちのようで、ちょっと可笑しい。

「ふふ。あなた、本当に下界に感化されてるのね。そんなことで、庭園ガーデンに戻れるの?」
「それは、お互い様だよ。と言うか、むしろ、僕はアーラの方が心配だけどね。庭園ガーデンに居た時だって、下界の事が気になって仕方なかったきみが、下界での生活を知って、庭園に戻れるのかい?」
「もちろん。私は庭園ガーデンに戻るわよ。庭園で大樹様リン・カ・ネーションのお世話をするのが、私の仕事なんだもの。そのために私は『学び』に来ているんだから」

 私たちは軽口を叩きながら家へと向かう。

 こんなことも庭園ガーデンにいた頃はなかった。双子Noelノエルの私たちは、他のNoelノエルたちよりも少しだけ互いに干渉しあう仲だった。でも、それだって、他と比べればの話だ。今のように、好きなことを好きなように言いあうことなんてほとんどなかった。

 私たちは、二人とも確実に下界に感化されている。果たして、それは良いことなのだろうか。
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