雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(9)

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 私の問いかけに、青島くんは弾けんばかりの笑顔で答えてくれる。

「ああ。任せとけ」

 右手の親指をグッと立てて返事をすると、青島くんは「さて」と言って立ち上がった。尻についた枯れ草や砂利をパンパンと払いながら「そろそろかなぁ」と焚火の方へと軽やかに駆けていく。

 そんな彼の背中を目で追う。運動部なのに、どちらかと言えば華奢な彼の背中が、いつもよりも大きく見えた。そんな背中に釘付けになっていると、突然彼がクルリと振り向く。

「おーい。白野。芋入れるから手伝って」

 彼の声に、私は勢いよく立ちあがると、少し先でブンブンと手を大きく振っている青島くんのもとへ向かって、全力ダッシュをする。なんだか、背中を見ているだけなんて嫌だった。少しでも早く、彼の隣に行きたい。そんなよく分からない思いが、私を後押しする。

 軽く息を弾ませて青島くんの隣に立つと、相変わらずの笑顔が向けられた。

「そんなにダッシュで来なくても。何? そんなに早く焼き芋したかったのか?」
「あはは。実はそう。私、焼き芋初めてなんだ。だから、楽しみ過ぎて」
「マジか? それは、責任重大じゃん。上手く焼けるといいけどな」

 他愛無い会話で笑い合いながら、私たちは大樹ひろしげさんが用意してくれたアルミホイルに包まれた芋を、次々と焚火の中へ入れていく。火の勢いはだいぶ落ち着いていた。余熱が辺りをじんわりと包む。その温かさが心地良い。

 さっきまでの肌をジリジリと焼くような勢いの炎は、まるで誰も寄せ付けまいとするかのようだったが、今は、全てを包む優しい暖かさを感じる。私は、こっちの方が良い。そんなことを思いながら、芋が焼きあがるまでの時間、焚き火を囲みながらまた二人でおしゃべりをする。

 青島くんとの話は尽きない。幼馴染だという緑ちゃんとの思い出。部活のこと、勉強のこと、それから、植物のこと。私は専ら聞き役だけど、楽しそうに話をする青島くんを見ているとこちらまで楽しい気持ちになる。

 芋が焼けるまで。それから芋が焼けてからも、彼は、尋ねればなんでも答えてくれた。もちろん美味しい焼き芋の作り方も。

 庭園ガーデンで焼き芋なんてした事はないけれど、私が大樹のお世話をするようになったら、焼き芋大会を開催しようかな。あまり感情の起伏の無いNoelノエルたちだけれど、みんなは喜んでくれるだろうか。

 そんな事を思いながら、ホクホクとした甘いお芋に舌鼓を打つ。焼き芋は、心まで甘く蕩けさせる食べ物だった。
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